忘却エンドロール

素敵映画に出会えた時の感動をそのまま書き綴る、映画感想ブログ.

映画「日の名残り(ひのなごり)」観ました

日の名残り
原題:THE REMAINS OF THE DAY
製作:イギリス’93
監督:ジェームズ・アイヴォリー
原作:カズオ・イシグロ
ジャンル:★ドラマ/ロマンス

【あらすじ】1958年、オックスフォード。ダーリントン卿が亡くなり、アメリカ人の富豪ルイスの手に渡ったダーリントン・ホール。かつては政府要人や外交使節で賑わったが、今は使用人も去り、老執事スティーヴンスの手に余っていた。そんな折、以前屋敷で働いていたミス・ケントンから手紙をもらい…。

印象に残っていたのは後半のケントンとの切ない関係だったんだけども、再見したら、それ以上に父親との関係に目が行ってしまいました。
体調が優れない父親を安心させようと、そっと手に触れるシーン。それが本当に控えめにそっと指の先っぽで触れる程度で、それが彼の精一杯の愛情表現なんですよね。亡くなった時も手の甲でそっと触れただけ。
きっと、父親と触れ合う機会なんて、執事としての仕事を教えられた時くらいで、抱きしめられるどころか手をつないだ事すらなかったのだろうと想像してしまいました。
浮気を知ってから妻への愛情を失ってしまった父親は、執事の誇りがよりどころになり、より仕事に没頭していったのかもしれません。そんな父親を見て育ち、厳格な父親が心から喜んでくれる”完璧な執事”を目指した事が、スティーヴンスの人生をこんなストイックなものにしてしまったのかなぁと…。
ケントンの愛に応えられなかったのは、執事の仕事に誇りを持ってるとか、仕事に忠実すぎたとかそういうことではなく(もちろんどちらも当てはまるのだけど)、この生き方しか知らなかったからだと思います。父親を見て育ったのもあるし、完璧な執事を目指したために余計なものは見ない聞かないを鉄則として生きてきた彼ですから。かろうじて知っていたのは、プライベートな時間に読んだ本の世界の事だけ。
彼は外の世界へ飛び立つ術を知らず、かごの中から出るのを恐れていたのでしょう。
それを後悔して正すために旅立った彼が、結局外へ出る理由を失い元の日々に戻るラストには、やるせなさがこみ上げてきました。
静かで淡々としているのに、心揺さぶられる名作だと思います。

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■ Comment

イラストがステキ!!

イラストを観た瞬間に再見したい!と思いました。
胸が熱くなるイラストです。

父親との関係も私は初見時はそんな風に見ていなかったので
次回はしっかり注目してみたいと思います。

>ケントンの愛に応えられなかったのは、執事の仕事に誇りを持ってるとか、
>仕事に忠実すぎたとかそういうことではなく
>(もちろんどちらも当てはまるのだけど)、
>この生き方しか知らなかったからだと思います。
本当に執事になるために生まれてきたというか
その他の生き方を知らない人でしたね。

宵乃さんの記事を読んだら再見したくてうずうずしてきました!
2012/12/11 14:07  マミイ編集

素晴らしいイラストですね~!

浮かび上がって見えるのは、向こう側からの光が本物に見えるからですね。。。
記事の文章とセットになって、切ない想いが深く伝わってきます。。。

>この生き方しか知らなかったからだと思います。

そうでしたよね~。

>父親を見て育ったのもあるし、

そうでしたよね~!!!

>結局外へ出る理由を失い元の日々に戻るラストには、やるせなさがこみ上げてきました。

彼女の事を責める事もなかったですね・・・。

>静かで淡々としているのに、心揺さぶられる名作だと思います。

イギリス映画らしい作品でした☆
2012/12/11 18:27  miri〔編集

>マミイさん

> イラストを観た瞬間に再見したい!と思いました。
> 胸が熱くなるイラストです。

嬉しいお言葉をありがとうございます!
握手のアップって、今まで何回か描きたくなったんですけど、見栄えが地味なので結局違うシーンを選んでたんですよ。でも、今回の握手はホント特別だったので思い切って描いちゃいました。描いてよかったです!

> 父親との関係も私は初見時はそんな風に見ていなかったので
> 次回はしっかり注目してみたいと思います。

わたしも前に観た時はそこまで重要だとは思ってなかったんですが、改めて観てみると前半はまるまる父親との関係を描いていて、主人公という人間を語るのに父親は欠かせない存在なんだなぁと思えてきました。
再見したら、ぜひ感想を聞かせてくださいね♪
2012/12/12 07:14  宵乃〔編集

Re: 素晴らしいイラストですね~!

> 浮かび上がって見えるのは、向こう側からの光が本物に見えるからですね。。。
> 記事の文章とセットになって、切ない想いが深く伝わってきます。。。

こちらにもコメントありがとうございます!
今まで何度か描きたいと思ってやめてきた”握手”のシーンですが、今回ついに描いてみました。愛する人への最大の愛情表現で、最後の別れという特別なシーンだったと思います。伝わったようで嬉しいです。

> 彼女の事を責める事もなかったですね・・・。

最後は本当に紳士すぎるくらいでしたよね。優しければ優しいほど胸が締め付けられました。ケントンが涙を流したのも、そういうことだったのかな。
イギリス映画の名作を堪能できました!
2012/12/12 07:43  宵乃〔編集

心を揺さぶられたイラスト

一枚のイラストでこんなにも人の心を揺さぶらせることができるなんて凄いなぁ!

>そんな父親を見て育ち、厳格な父親が心から喜んでくれる”完璧な執事”を目指した事が、スティーヴンスの人生をこんなストイックなものにしてしまったのかなぁと

>それを後悔して正すために旅立った彼が、結局外へ出る理由を失い元の日々に戻るラストには、やるせなさがこみ上げてきました

そうなんだ・・・。きっとケントンはそんな彼を見抜いて愛したのでしょうね。
再見するって大事なことだとつくづく思わされます。
私も再見したくなりました。
2012/12/12 09:02  bamboo編集

>bambooさん

いらっしゃいませ!
このイラストでそんな風に感じていただけたなんて光栄です。
とっても心に残るシーンでした。

> そうなんだ・・・。きっとケントンはそんな彼を見抜いて愛したのでしょうね。
> 再見するって大事なことだとつくづく思わされます。

父親が倒れた時、仕事に戻ろうとして「父はこうすることを望んでいるだろうから」「ええ、わかっているわ」というやり取りを見て、もう心の奥底では通じ合っているんだなぁと思いました。再見すると前に気付かなかったところが見えてきますよね~。
bambooさんも、記憶が薄れた頃にまた挑戦してみて下さい♪
2012/12/12 10:20  宵乃〔編集

父親の存在

>改めて観てみると前半はまるまる父親との関係を描いていて、主人公という人間を語るのに父親は欠かせない存在なんだなぁと思えてきました。

おぉ!コレは気付きませんでした。こんな風には観なかったと記憶していますので、俄然気になりました。もう一度観なければ。
それと

>彼は外の世界へ飛び立つ術を知らず、かごの中から出るのを恐れていたのでしょう。

ラストシーンの迷い込んだ鳥の意味が成り立ちますね。
監督の解説では、あの鳥は偶然の産物といってましたが、ある意味スティーブンスのようでもあり、彼の願望でもあるのでしょうか。
2012/12/12 17:15  十瑠〔編集

>十瑠さん

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます!
父子の物語が好きなもので、わたしの妄想も入ってるかもしれませんが(笑)、奥深い作品で再見のたびに発見があると思います。
もし再見したら、十瑠さんの意見もお聞かせ下さい♪

> ラストシーンの迷い込んだ鳥の意味が成り立ちますね。
> 監督の解説では、あの鳥は偶然の産物といってましたが、ある意味スティーブンスのようでもあり、彼の願望でもあるのでしょうか。

偶然だったんですか!?
それはもう映画の神様が舞い降りたとしか…。あの鳥が飛び立って、スティーブンスがいるお屋敷がどんどん遠ざかっていく映像は、本当に彼の人生を思わせるもので上手いなぁと思ってたんですよ。鳥が迷い込まなければ、違うラストになっていたのかもしれないんですね…。
教えて下さってありがとうございました!
2012/12/13 09:29  宵乃〔編集

こんにちは☆

すごく見たくなって再見しました☆
(オンエアを保存していなかったらしく、びっくり仰天!)
(DVD買ってでも見たかったんです)

イラストのシーン、すごいですね~!
どうも前にコメント書かせていただいた時は場面を勘違いしていたような?
今回はハッキリと分かって、止めて、終わってからも巻き戻して、ガン見ガン見でした☆

>印象に残っていたのは後半のケントンとの切ない関係だったんだけども、再見したら、それ以上に父親との関係に目が行ってしまいました。

この映画は見るたびに違う印象を与えられそうな・・・
私はあの女性との事、前はあんまりだったのですが、今回は惹かれました。

お父さんのことは、こちらの記事を覚えていたのでシッカリと見ました。
宵乃さんほど惹かれなかったけど、前と同じように、彼の生い立ち等思ったり、年齢を重ねることの悲しさを感じたりしました。

>それを後悔して正すために旅立った彼が、結局外へ出る理由を失い元の日々に戻るラストには、やるせなさがこみ上げてきました。

私は彼は “誇りをもって” 元の日々(プラスアルファの心を持って)を、“自分で選んで送る” のだと思えました。

>静かで淡々としているのに、心揺さぶられる名作だと思います。

ガイ・リッチー監督さんを見直すというか(笑)。
素晴らしい作品で、イギリス人でなくとも、何回も見て、色々な目線で見たい作品だと思いました☆

明日アップしますので、お時間いただけたらお願いいたします♪

.
2017/05/22 10:07  miri〔編集

>miriさん

いらっしゃいませ!
DVD購入してまで再見したかったとは…、この作品なら納得です。

> どうも前にコメント書かせていただいた時は場面を勘違いしていたような?
> 今回はハッキリと分かって、止めて、終わってからも巻き戻して、ガン見ガン見でした☆

よく覚えてますね~。いつもイラストのシーンをチェックしてくださってありがとうございます♪
しかも記事の内容まで覚えていてくれるなんて嬉しいです。お父さんのエピソードはもう、この記事の時にはホントしみじみきました。

> この映画は見るたびに違う印象を与えられそうな・・・
> 私はあの女性との事、前はあんまりだったのですが、今回は惹かれました。
> 私は彼は “誇りをもって” 元の日々(プラスアルファの心を持って)を、“自分で選んで送る” のだと思えました。

そうそう、そうなんですよ。抑えた演出のたまものか、観る時で印象が変わって面白いです。
女性とのエピソードに惹かれたことや、ラストの解釈が前向きになったのも、miriさんの今の気持ちが反映されているのかもしれませんね。

> ガイ・リッチー監督さんを見直すというか(笑)。
> 素晴らしい作品で、イギリス人でなくとも、何回も見て、色々な目線で見たい作品だと思いました☆

ガイ・リッチー監督のお好きな作品だったりするのでしょうか?
お互い、これからも時々再見していきましょうね♪
2017/05/23 12:48  宵乃〔編集

No title

 宵乃さん、こんにちは

父親との関係
〉僕は尊敬はあれど愛情が有ったか疑問に思っています。(これは観た時から)
仕事に戻った時、何人もから異変を察知されて「泣いてるような」とまで言われてるから喪失感、ショックは勿論、有ったでしょう、人間ですから。
でも、死が目前に迫ってるのが明白にもかかわらず
「いい父親だったかな?」の問いに答えられず後回しにしています、「いいお父さんでしたよ、また後で」と言うのに3秒も掛からないのに。
※プロの役者が親の死を舞台で客に悟られないように、ブロの執事なら、やはりゲストや主人に悟られないだろう、彼が本当に名執事なのか、あの時点では怪しいという説もありました。

ケントンへの愛〜この生き方しか知らなかったからだと
〉僕も同意です。執事業に関する以外、彼の知識はあの蔵書によるものしかなかった、イギリスの田園風景も恋愛も、女性の愛にどう答えていいのか解らず、自分の世界での対応しか出来なかったのだと思っています。

ヨーロッパを動かす重大な秘密会議の執事として名誉ある貢献をした、それが彼の誇りだったのに、それが無益どころか害悪でしかなかった。
屋敷は親族誰もが引き取らず、新しい主人はアメリカ人。
ぎりぎり保っていた彼の自己基盤も崩壊しかける、そこへ忘れた事ないケントンから手紙が来た、本当に「スタッフ不足を補う為」なら手紙、電報で済むのに、した事もない旅行に出る目的は只一つ、彼女に会って昔に戻りたかったという事なんだと思いました。(彼女に対する想いは勿論ある)
2019/01/16 15:49  鉦鼓亭〔編集

>鉦鼓亭さん

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます!

> 僕は尊敬はあれど愛情が有ったか疑問に思っています。(これは観た時から)

んー、私の感覚としては、この人はまだ親の愛情を求める段階で止まっていて、親を愛するレベルまで行ってない気がしました。幼児レベルというか、漠然とした愛はあるかもしれないけど傍から見ても当人にしてみてもよくわからないくらいの…。なので質問に答えられなくても疑問には思いませんでしたし、そもそも愛していても良い父親だと思っているとは限らない(汗)

> 彼が本当に名執事なのか、あの時点では怪しいという説もありました。

人間としては未成熟なので、とてもアンバランスですよね。アーティストや学者、技術者ならともかく対人でのお仕事では本物のプロにはなりえないのかも。

> イギリスの田園風景も恋愛も、女性の愛にどう答えていいのか解らず、自分の世界での対応しか出来なかったのだと思っています。

ですよね~。それでもケントンという女性と出会えたことは彼にとって幸福なことでした。

> それが彼の誇りだったのに、それが無益どころか害悪でしかなかった。
> した事もない旅行に出る目的は只一つ、彼女に会って昔に戻りたかったという事なんだと思いました。(彼女に対する想いは勿論ある)

彼の人生の中で彼女と過ごした時期はもっとも輝かしく、何度も思い返しては「ここでああしていれば」と様々な感情を刺激したでしょうからね~。なんともやるせないラストでした。
2019/01/17 08:13  宵乃〔編集
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