映画「ぼくのエリ 200歳の少女」観ました

製作:スウェーデン’08
原題:LAT DEN RATTE KOMMA IN
監督:トーマス・アルフレッドソン
原作:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
ジャンル:★ホラー/ロマンス/サスペンス
【あらすじ】ストックホルム郊外の小さな町。学校でいじめられる12歳のオスカーは、復讐を夢想して憂さ晴らししていたところを、謎めいた少女に目撃される。毎晩のように言葉を交わすうち、次第に惹かれあうふたり。その頃、町ではおぞましい殺人事件が起こり、住民の間に不安が広がっていた。
まだ続けてる肝試し企画3作品目。
これは切ない…。オスカーとエリの純愛はもちろんの事、エリに尽くすおじさんも、エリの犠牲になった人々もホント切なかったです。それに、その舞台となる冬の町もいいんですよ。それぞれの孤独を際立てるような寂しさがあって。
二人の出会いは、ホラー映画なのに胸キュンものでした。二人とも孤独を抱えていて、エリは最初は彼を遠ざけようとするんだけど、どうしても気になってしまって会いにきてしまうんですよね。
町で猟奇事件が起きている事を除けば、二人のピュアな初恋物語のようでした。
→以下、ネタバレ注意!
でも、エリはヴァンパイアで、生きるために人を殺しつづけなければなりません。飢えに抗えず、人を襲って血を吸ってしまった時の辛そうな様子…。吸った後、首を折って殺すのは、自分と同じ苦しみを味あわせたくないという、エリなりの優しさでしょう。
運悪くヴァンパイア化してしまった女性が、自分が変わってしまったことを自覚し、愛する人を傷つけまいと取った行動と比べると哀しくなってしまいます。エリだって、ヴァンパイアになったのが彼女くらいの年だったら、こんな生き方を受け入れることはなかったかもしれないのに。
エリの保護者だったおじさんとの別れも、怖いというより哀しい…。エリがどんな思いで彼といたのかはよくわからなかったものの、おじさんはエリにすべてを捧げる覚悟で一緒にいました。
ラストのオスカーの笑顔が儚いと思ってしまったのは、彼の未来がおじさんの末路と被ってしまったから?
ただ、一方で違和感もあって、エリにとってオスカーはあのおじさんと同じなのか、それとも特別なのか、気になりだすと止まりません。
まず、オスカーと出会ったばかりの頃のエリは、オスカーに「臭う」と言われてしまうほど自分の身だしなみや清潔感に興味がなかったのに、次に会った時は綺麗にしてきました。もし、おじさんとオスカーが同じなら、いくら年老いたからといって臭くなるまで放っておかないと思います。
そこで、性的虐待被害者が自分から汚い格好をしたり風呂に入らなかったりする事があると思い出してしまったんですが、おじさんのことは嫌ってなかったから少なくとも彼とは肉体関係はなかったはず。…だけども、やはりオスカーとは違ってギブ&テイクな関係だったんじゃないかと思います。(そもそも、エリといるためにあんな風に人閒を殺すような人と、オスカーを一緒にしたくない…)
また、エリの「女の子じゃない」という言葉も謎のままで気になりました。最初はヴァンパイアだからという意味かと思ったんですが、”ずっと12歳のまま”と人間の年齢にこだわったり、血を飲むのを辛そうにしていたり、元人間だという事にこだわってる彼女があえて「女の子じゃない」と言う理由は?
結局、考えてもわからずネットで調べたところ、ここでは書きませんがすべて納得できました。映倫いらないね!
わたしの解釈では、エリはオスカーとともに生きて、彼と共に自分の人生も終わらせると思います。彼が特別だから。おじさんの時のように食事を要求することもないでしょう。エリは自分が嫌な事を大切な人に押し付けるような子ではないと思います。
ちなみに、原題の意味は「招き入れる」。ヴァンパイアは招かれないと家に入れないという伝承からで、そうしないとどうなるかを見せたあのシーン、心からオスカーがエリを受け入れた瞬間を思い起こさせるタイトルです。
<追記>
ラストは残されたひと視点で見ると悲惨ですよね。やっぱり、愛というよりは恋でしょうか。
エリは自分を守れなかった”親”というものを見限ってると思うんです。なので、いじめから守れず、プールでも守れなかったオスカーの親のことも、取るに足らない存在だと思ったんじゃないかと。それに、200年以上生きてきたといっても、あの隠遁生活です。大人びたところはあっても、精神的にはそれほど成長してないでしょう。今はオスカーと一緒にいたいという気持ちが優先していて、何が一番彼のためになるか考えるに至ってない気がします。でも、困難の多い道のりでしょうし、その中で愛に変わっていく可能性は感じました。
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■ Comment
これは北欧の繊細で冷たい静謐な雰囲気もあいまって、
凄く切なくてとてもよかった作品でした
ぼかし の シーンが 最初いまいち伝わらなかったようですね
でもあのぼかし、いらないよなぁと思っちゃいました
原作は読んでいませんが、エリの過去になにか大きなことがあったことはわかるし
どうなっているのかも、察することができるシーンでした
エリとオスカーのこれからがどうなるかはわかりませんが、
リメイクである「モールス」とは解釈が違う気がします
私はこちらのほうが好きです…
宵乃さん、こんばんは。
>結局、考えてもわからずネットで調べたところ、
>ここでは書きませんがすべて納得できました。映倫いらないね!
私もネットで原作のことなど調べて愕然としました。
邦題からして、ミスリードですよね。
それにしても、誰がモザイクにしたんだか・・・・。
まあ、おじさんの正体もぼかしたまんまでしたし、
原作を読んで補完してねって事なんですかね。
ちなみにラストシーンでオスカーがエリに送ったメッセージは
スウェーデン語でキスを意味してるらしいです。
原作を読んでから改めて再見してみたいです。
今回は調べる前に記事を書いたので、再見時には全然違う感想になりそうです(^^;
宵乃さん、こんばんは!
印象に残る素敵な作品ですよね。
行ったことはないけど、スェーデンの冬を感じさせてくれました。
スウェーデンは、こちらから見てると無名に近いような気もするのですが、
ベルイマンを輩出した国だから、それなりの土壌もあるんだろうし、ポー・ウィデルベルイ(「みじかくも美しく燃え」他)、ラッセ・ハルストレム(「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」、「ギルバート・グレイプ」、「シッピング・ニュース」)や、この作品の監督、更に最近も一人話題になる監督が出て、結構、隠れた映画大国なんだな、と最近感じています。
しかし、この作品のサブ・タイトルと例のボカシは腹が立つくらい酷いですよね。
ボカシの場面は、知らなければ誰だって違う意味に取ってしまうと思います。
どうしても見せられないならR-18にするべきです。
「臭い」の件>服装は自発的な結果ですけど、「臭い」は単にヴァンパイアの体質の問題だったと思います。
ヴァンパイアは空腹になると「獣」に近くなり、「獣」の臭いを発散させてしまう生理的現象だと僕は思いました。
これを書いていて、ちょっと原作を読んでみたくなりました。(笑)
(原作は映画ほど美しくなさそうですが)
※ラストシーンのモールス信号の意味、健気で可愛いです!
いらっしゃいませ!
これは本当に良い作品でしたよね。物語と役者と舞台がぴったり合って、まるでこの作品のためにあったみたいな。
> でもあのぼかし、いらないよなぁと思っちゃいました
> 原作は読んでいませんが、エリの過去になにか大きなことがあったことはわかるしどうなっているのかも、察することができるシーンでした
そうですよ~、あのシーンを消したら物語を変えたも同然です。映画への冒涜ですよね!
> リメイクである「モールス」とは解釈が違う気がします
> 私はこちらのほうが好きです…
他の方もそう言っていたので、間を置いて別物として鑑賞したいと思います。
今はまだ、この余韻に浸っていたい!
いらっしゃいませ、コメントありがとうございます♪
この映倫の判断も、この邦題も酷いですよね~。作品への配慮も敬意もまったくないです。配給会社も映倫の言いなりみたいで、邦題のミスリードも故意にやってるとしか…。
> まあ、おじさんの正体もぼかしたまんまでしたし、
> 原作を読んで補完してねって事なんですかね。
そこは原作を尊重しつつも、観る人の判断にゆだねる感じなのかな~と思います。
原作はちょっとエグイところもあるみたいですし。
> ちなみにラストシーンでオスカーがエリに送ったメッセージは
> スウェーデン語でキスを意味してるらしいです。
可愛いですよね~!
昨日調べていて知ったんですが、ニマニマしてしまいました。
> 原作を読んでから改めて再見してみたいです。
> 今回は調べる前に記事を書いたので、再見時には全然違う感想になりそうです(^^;
そういえば先月アップされたばかりでしたよね!?
うっかり忘れてました、すみません。さっそくうかがいま~す。
いらっしゃいませ!
いいですよね~、スウェーデン。わたしもよくは知らないけど、こうやって並べると素晴らしい作品が生み出されている土地なんですね~。
この冬景色はこの作品のためにあるかのようでした。
> ボカシの場面は、知らなければ誰だって違う意味に取ってしまうと思います。
> どうしても見せられないならR-18にするべきです。
ホントその通りだと思います。
苦情をメールした方がいて、その返信は要約すると「子供のため」だそうですよ!
作品のストーリーに関わる重要な部分を隠して、まがい物を見せて、何が子供のためなんでしょう。R-18の表記だけで十分ですよね。
> ヴァンパイアは空腹になると「獣」に近くなり、「獣」の臭いを発散させてしまう生理的現象だと僕は思いました。
あぁ~、そういう事だったんですか。それで食事が無くてカリカリしてたんですね。意外とヴァンパイアの造詣は伝承に沿ってるようなので、それも昔からある設定なのかな?
> これを書いていて、ちょっと原作を読んでみたくなりました。(笑)
> (原作は映画ほど美しくなさそうですが)
そうですね、映画は好きな解釈ができる余地があるのが心地よかったです。原作の評判も良いみたいなので、もし読んだら感想聞かせてほしい!
モールス信号の内容も全部書かれてるんだろうなぁ。あのくだりが可愛すぎて、自分もモールス信号覚えたくなっちゃいました(笑)
>例えば父親が同性愛者だというのは「ぼくのエリ」では明確に解るけど
あれはアル中のパパが、酒飲み仲間の登場でウキウキしていただけで、それを知らずに観た時も、わたしには同性愛者には見えませんでした。
ラストは猟奇&失踪事件になってしまって、親からみたら悲惨ですよね。確かに純愛ではないかも…。ネタバレを見てない状態で、エリは親を憎んでると思ったのはこのせいだったか。
>「キック・アス」も見てみたくなったくらい。
これは子供がカッコよく敵を惨殺する映画が好きじゃないとキツイですよ…。
記事があるので(参考になるかわからないけど)お暇な時にでも。
http://anoken.blog18.fc2.com/blog-entry-815.html
先ほどは「ジュリエットからの手紙」にコメントを有難うございました☆
後ほど返信させて頂きますね~♪
>まだ続けてる肝試し企画3作品目。
どうも~「肝試し企画」最後を飾るのは、ワタクシ・・・なんちゃって☆
先日、別のDVDを借りるとき、安かったのでついでに借りて見ました☆
イラスト良いですね~良いシーンです♪
明日、記事をアップしますので、どうぞお手柔らかに(爆)。
・・・というのも、なんというか私は皆さんと違って
変に現実的に見てしまったので、ヘンな感想になっているかもしれませんので・・・。
>それに、その舞台となる冬の町もいいんですよ。それぞれの孤独を際立てるような寂しさがあって。
私がこの映画を見終わって、良かったのは、これだけです(笑)。
>わたしの解釈では、エリはオスカーとともに生きて、彼と共に自分の人生も終わらせると思います。彼が特別だから。おじさんの時のように食事を要求することもないでしょう。エリは自分が嫌な事を大切な人に押し付けるような子ではないと思います。
>今はオスカーと一緒にいたいという気持ちが優先していて、何が一番彼のためになるか考えるに至ってない気がします。でも、困難の多い道のりでしょうし、その中で愛に変わっていく可能性は感じました。
なんだか、すっごくこころ優しい解釈ですね~♪ 宵乃さんらしい感じです。
私は現実的で、オスカーがあの年齢で何もできる筈がないから、
二人の逃避行は先がないと思っています。
もちろん気持ち的には宵乃さんのご意見と同じですが、無理無理~って思っちゃって。
エリはお腹がすいたら、どうしてもそうするし、
オスカーは いずれ何らかの形で親または行政(施設等)のもとに戻されると思います。
この映画、ヴァンパイアのシーンは怖くなかったけど、
子供の虐めシーンが怖くて怖くて・・・とっても辛かったです。
では、明日お願いします☆
2012/09/19 10:25 miri〔
編集〕
> どうも~「肝試し企画」最後を飾るのは、ワタクシ・・・なんちゃって☆
お~、こちらをご覧になったんですね!
ヴァンパイア版「小さな恋のメロディ」と言われています(笑)
miriさんはきっと同じように仰るだろうなぁと思ってました。
でも、雪の町の寂しさは堪能できたようで良かったです。
> 私は現実的で、オスカーがあの年齢で何もできる筈がないから、
> 二人の逃避行は先がないと思っています。
わたしも直後はふたりの未来を思い描いてしまいましたが、いくら考えても食事も路銀稼ぎも逃亡(プールに駆けつけた速さからみて、元気な時は空も飛ぶ勢いの超人的能力を発揮できる)もぜんぶエリ任せという酷い展開しか思い浮かばないので、たぶんオスカーはすぐ家に戻るだろうと思ってます。でも、エリが新しいパートナーを見つけて元の生活に戻っても、彼の事は忘れないし、時々戻っては遠くから見守っていくと思うんですよ。オスカーの人生を通して、エリも自分の人生(愛)を見つけられるんじゃないかと。
彼が亡くなる頃には自分で命を絶つと思いますね~。太陽の光を浴びて!
> この映画、ヴァンパイアのシーンは怖くなかったけど、
> 子供の虐めシーンが怖くて怖くて・・・とっても辛かったです。
ホントですよね…、実際にああいう事が起きているというのが恐ろしいです。こういう境遇だったからこそ、エリが興味を持ったわけで、必要な設定だというのはわかるけど、やはり観てるのは辛かったです。
この作品はヴァンパイア作品でも好きな作品でただ恐いだけのヴァンパイア作品ではなく
エリとオスカーの関係を丁寧に描いた作品でエリが人を殺さないといけない
と言う部分が辛いこととして描かれているのが良かったです
ただ恐いだけのヴァンパイア作品も好きですがこういった少なからず不本意に
ヴァンパイアにあってしまった人の苦悩という部分が描かれている
作品は少ないのでこの作品の価値は大きいと思いました
リメイク版を先に鑑賞してしまいましたが逆に良かったかもしれません
いらっしゃいませ!
そうそう、エリとオスカーの関係が丁寧に描かれてましたよね~。
私の好きなヴァンパイアものはこれと「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」と、あと正統派ドラキュラものの「吸血鬼ドラキュラ(英’58)です。
望まぬ吸血鬼化の苦悩は私も大好物で、ゲームやアニメなんかでもそういうキャラが出てくると肩入れしてしまいます(笑)
> リメイク版を先に鑑賞してしまいましたが逆に良かったかもしれません
完成度の高い方を後に観た方がガッカリ度が少ないですもんね。
コメントありがとうございました。