映画「クリミナル 2人の記憶を持つ男」観た
原題:CRIMINAL
製作:イギリス・アメリカ’2016 113分
監督:アリエル・ヴロメン
ジャンル:★サスペンス/アクション/SF
【あらすじ】CIAロンドン支局のエージェント、ビル・ポープが極秘任務中に命を落とした。彼は世界的なテロを防ぐのに必要な情報を持っており、CIAは記憶移植手術でビルの記憶を他人に植え付けることに。移植相手に選ばれたのは、人間的な感情や感覚を持たないサイコパスの死刑囚ジェリコで…。
これは設定的にダメかと思ったんですが意外にも良かったですね。
個人的に「同じ記憶を持つ大切な人とは別の存在」は本人とはまったくの別物という認識で、そういうのを生み出したり求めてしまうのは、(とくに亡くなった人の場合)本人を否定するのも同然だと考えていました。なので、簡単に受け入れてしまう登場人物なんかがいると冷めてしまっていたんですよね。
でも、この作品はほとんど気になりませんでした。以下、ネタバレあります。
他の作品との大きな違いは、誰よりも記憶定着を望んだのが記憶を移植された死刑囚・ジェリコ(ケヴィン・コスナー)自身だったからだと思います。最初こそCIAの都合で勝手に記憶を移植されたものの、その被験者に選ばれた理由は幼少時の怪我による脳の障害で、感情を司る部分が未発達だったから。つまり、彼は物心ついてから感情はもちろん愛というものを感じたことがありませんでした。
必要なものは奪い邪魔なものは排除するという、ただ自分がやりやすいように生きてきたジェリコ。そんな彼が、妻子を持ち使命に命を捧げたCIAエージェント・ビルの記憶を移植され、初めて感情というものを理解します。
まるで「アルジャーノンに花束を」のように、彼の世界は変貌してゆきます。ビルと妻子との幸せな想い出に触れ、実際に彼女たちに会って「守りたい」という思いが湧きあがり、そしてかつての自分が何も持たない哀れなモンスターだったと知るのです。
放っておけば48時間で元の自分に戻ってしまう、それがわかってからの彼の表情は迷える子羊のよう…。
ビルの記憶は使命を忘れてはいないものの妻子への想いで溢れ、そしてジェリコ自身は空っぽだった自分に戻ることに少なからず恐怖を感じていました。一度知った感情を伴う世界を失えば、きっと大きな喪失感だけは消えずに残る…そんな予感があったのかもしれません。
そんな彼に無意識に心を許す幼い娘と、彼と娘を見ているうちに夫は彼の中で生きていると感じた妻。そして、ジェリコの状況を一番理解している医師(トミー・リー・ジョーンズ)の同情的な視線など、彼に好意的な人間と記憶移植手術を望んだ人間が別だというところも受け入れやすいポイントだったと思います。
終盤、記憶定着手術をとるか、妻子救出をとるかという展開は、わかっていても盛り上がりますね。
ラストはそれでいいのだろうか…と若干悩んでしまうものでしたが、ここまで引っ張ってくれたのでまあいいかと思えました。SF好きならおススメ。