映画「グランド・ホテル」観ました
読み:ぐらんどほてる
原題:GRAND HOTEL
製作:アメリカ’32
監督:エドマンド・グールディング
原作:ヴィッキー・バウム
ジャンル:★ドラマ
ベルリンで超一流の「グランド・ホテル」。今は落ち目バレリーナや、危機に瀕した大企業の社長と雇われ美人速記者、借金で首が回らない自称”男爵”、一生の思い出作りに来た老人クリンゲラインなどの客が、この場所で様々に交錯する。
”グランドホテル形式”の呼び名の由来となった作品。
ホテル内での、たった一晩の出来事なのに、それぞれの人生が垣間見えて、これからの彼らを考えずにはいられませんでした。
イラストに描いたシーンも好きなんですが、やっぱり男爵の魅力に惹かれましたね。メインの登場人物全員と関わる中心人物なんですが、泥棒なのに優しいし紳士なんですよ。
いいカモであるはずのクリンゲラインに近づくも、彼に「こんなにしてもらったのは初めてだ」と心から嬉しそうに言われ、ふと目を逸らし、それからとても優しい目で「友達だから」と答えるシーンでがっちり心を掴まれました。
財布を盗めず、ネックレスも盗めず、困りきっているという事をおくびにも出さないで、たまたまホテルで出会った人々に優しくする姿にはグッときます。
ラストは物悲しくも、どこかあたたかい余韻を残しました。
<2019/01/15再見>
久しぶりに再見。内容は覚えていると思っていたけど、終盤の展開をすっかり忘れていました。…そういえば結構重い話だった。
男爵が魅力的なのは前回同様ですが、今回気になったのはバレリーナや病気の老人、美人速記者、そして諸悪の根源となった社長さんでした。みんな男爵の死で大きな影響を受けた人たちです。
まずバレリーナのグルシンスカヤ。落ち目で自分の代わりなんていくらでもいるのだろうと落ち込み、今にも死にそうな精神状態だった人です。それが男爵との恋で自信を取り戻して「何も怖くない!」となったのに、その後どうなったのか考えると…。あまりにも急展開過ぎて抜け殻のようになってしまうか、それとも悲しみを踊りに昇華させるのか…。
彼女の場合は後者ではないなと思えてしまって悲しくなりました。お付きの人も必死で隠してたよね。
次に病気の老人クリンゲライン。もう先は長くないから、思いっきり楽しんでから死ぬんだと常にハイテンション。
仕事一筋だったようで家族も友人も恋人もなかった彼が、ここで男爵や速記者、顔にあざのある医者などの友人を得ます。男爵に友人だと言ってもらえた時、そして速記者フレムヒェンとダンスする彼の幸せそうな表情が印象に残ります。
死は誰にも等しく訪れるもの。だからと言って不幸になるとは限らない。…ただし、ある程度の元手と運があったからこそ得られたのだと、現実的な側面も見せてくれました。
そして、映画に出たい(だったかな?)という夢のため必死に働いているフレムは、真実の愛なんて存在しないといいつつ、紳士で優しい男爵の存在が気になって仕方がないという様子。彼女と男爵は似た者同士だったんでしょうね。
男爵が気に掛けるクリンゲラインには同じように優しく接し、彼に酷い態度を取る社長のことは快く思っていない。でも、お金のために仕方なく…。社長の部屋の扉の前で男爵と出くわして交わした言葉には、深い共感のようなもの込められているように思えました。
ラストでクリンゲラインと共に旅立つのも、男爵という共通の友人を亡くした悲しみを二人で乗り越えるためという感じ。恋愛感情ではないと思うけど、とても温かい旅になりそうだと思えました。
最後に周りに不快感を与えていた傲慢な社長プレイジング。仕事で窮地に陥り(たぶん仕事上)初めて吐いた嘘を皮切りに、瞬く間に転落していきます。明日なんとかできなければ詐欺で訴えられかねない状況で、不安を振り払うためにフレムに言い寄ったり。…妻を裏切ったことはないと言っていたけど、愛しているからというわけではなさそう。
さらに、盗みに入った男爵と鉢合わせ、自分に恥をかかせたことや男爵の人望の厚さに嫉妬したのもあったのか、激昂して殺してしまいます。
ある意味、一番の被害者は彼の会社で働く、かつてのクリンゲライン同様の従業員たちですよね…。
初見時は救いも感じられたけど、今回はバレリーナさんと従業員、社長の家族のことを考えると暗い気持ちの方がやや勝ってしまいました。
ただ、時間を忘れるほど素晴らしい映画だというのは変わりません。