映画「黄金の腕(おうごんのうで)」観ました

原題:THE MAN WITH THE GOLDEN ARM
製作:アメリカ’55
監督:オットー・プレミンジャー
原作:ネルソン・アルグレン
ジャンル:★ドラマ/サスペンス
【あらすじ】麻薬中毒で半年の療養所生活を終えたフランキー。彼はドラマーとして人生をやり直そうとするが、ディーラーの腕を買う胴元や売人ルイ、彼を繋ぎ止めるため立てない振りをする妻ゾシュらが邪魔をする。彼の味方は愛人モリーだけだった。
「黄金の腕」というタイトルやドラマーを目指している事から、裕次郎的な青春ドラマなのかと思いきや、薬物依存症を取り上げた真面目な社会派ドラマでした。タイトルはディーラーのほうにかかってるんですね。
なんでも、当時タブーだった”麻薬”を題材にしたせいで検閲に引っかかったとか。薬物乱用に対する注意を喚起する内容だと思うんですが、何がどうタブーなのかよく分かりません。マフィアの圧力でもあったんでしょうか?
それはさておき、この作品を観て一番に思い出したのがアルコール依存症を扱った「失われた週末」です。酒と麻薬じゃレベルが違う気がしてたんですが、当事者にしてみればどちらでもさして変わらない事に気付きました。いちど嵌ってしまえば、独りでその地獄から抜け出すことはできないんですよね。
ですが、周りの人間に支えられていた「失われた週末」とは違い、こちらは悪意を持った人間たちが、一度は立ち直った彼を追いつめていきます。
中でも強烈なのが彼の妻ゾシュ。
登場シーンでは”半年振りの夫の帰りに喜ぶ健気な妻”といった様子でしたが、彼がドラマーになると言い出した途端に表情を曇らせます。彼女にとって堅気かどうかに意味などなく、”今まで通り”であることが重要でした。
その理由は、夫の浮気に気付き”立てない振り”を続ける彼女にとって、一番大切なのが現状維持だからなんですよね。たぶん。
ですから、麻薬に対しても、「お金を持っていかれるのは困るけど…」程度の関心しかありませんし、逮捕や入院で離れ離れになる可能性があることなんて(今のところ)頭にありません。
彼女の頭にあったのは、「とにかく今まで通りにしていれば、夫が愛人と去ることはない」ということだけだったように思えます。
こうやって書いてみるとずいぶん自分勝手な女に見えますが、元はといえば主人公が悪いんですよね。飲酒運転で彼女に重傷を負わせ、覚悟も無いのに結婚し、彼女と向き合えず愛人をつくり、そのうえ麻薬に手を出して…。きっと、ディーラーになったのも、イカサマをする様になったのも、悪い仲間とつるんでいて”なんとなく”だったんじゃないでしょうか?
彼の弱さに振り回されてあんなふうになってしまったかと思うと、彼女が少し哀れに思えます。
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■ Comment
いつも色々と有難う~!
>飲酒運転で彼女に重傷を負わせ、覚悟も無いのに結婚し、彼女と向き合えず愛人をつくり
ここのところですけど、私は、愛人と書かれている女性と彼は、ずっと以前から愛し合っていたのだと思ったのです。
それで、お友達程度に思っていた人を車に乗せていたら事故に合ってしまって、女性の方は元々彼にゾッコンだったから、責任を取らせて結婚させた、という感じで、受け止めていました。
なので、宵乃さんとは違う感じの感想になったかもしれません・・・。
(失われた週末、は未見で、是非見てみたい作品です!)
来週「月蒼くして」と一緒にアップします☆
イラストは、どちらもお借りしたいので、宜しくお願いしま~す(ペコリ)
2010/07/21 10:55 miri〔
編集〕
> ここのところですけど、私は、愛人と書かれている女性と彼は、ずっと以前から愛し合っていたのだと思ったのです。
ああ、そういう解釈もあるんですね~。
でも、わたし的には”愛してない相手と結婚する”のは、脅されようが責任問われようが命に関わろうが断らないといけないと思うんですよ。それでも結婚するなら愛する努力をするべきだし、”脚が治ったら捨てられる”と妻が思い込むようじゃだめかな、と。
もちろん妻にも問題は多々あったでしょうし、時代にもよるんでしょうが。
> 来週「月蒼くして」と一緒にアップします☆
> イラストは、どちらもお借りしたいので、宜しくお願いしま~す(ペコリ)
古いイラストも使ってくれてありがと~!
miriさんの感想、どちらも楽しみにしてます。
2010/07/21 12:08 宵乃
映画のメッセージとしては、薬物の怖さと、依存症を回避する環境としてはモリーは善であり彼女以外は悪であったという事を受け取りました。
特にルイとザシュについてはあぁいう結末をもって断罪しているのではないかと。
ハリウッド映画ですからね。
フランキーとモリーとザシュの関係について、曖昧な表現だったので色々と想像されたみたいですけど、読んでいて僕は他のイメージもしてしまいましたよ。あくまでも仮定の想像なんで、書きませんが。
> 依存症を回避する環境としてはモリーは善であり彼女以外は悪であった
色々と覚えてないのであれなんですが、映画としてはそう描いていたかもしれないけど依存症患者にあんまりプレッシャーをかけるのは逆効果じゃないのかなと思ったり(汗)
> 特にルイとザシュについてはあぁいう結末をもって断罪しているのではないかと。
結末も覚えてないですね…。どちらにも何かしらの天罰が下った感じでしょうか?
> あくまでも仮定の想像なんで、書きませんが。
気になるじゃないですか(笑)
大分前に見たので、今見たら印象は変わるかもしれません。当時は、奥さんばかり悪者みたいに見られてたら可哀想だなぁと思ったみたいですね(たぶん他の人の感想でボロクソに書かれてたのを見かけたんだと思います)
>どちらにも何かしらの天罰が下った感じでしょうか?
ルイはザシュの脚の件を知り、周りに言いふらしてやると言って、油断したすきに彼女にアパートの階段から突き落とされて死にます。
容疑者はフランキーとなるのですが、終盤にザシュはフランキーや刑事の前で歩いてしまいルイ殺しの件まで悟られてしまいます。連行されそうになった彼女はアパートの外へ飛び出し落下、ルイと同じように絶命します。
こんな感じでした。
ご説明ありがとうございます!
そういえばそんなにシビアな結末でしたっけ…。交通事故のことがなければ、彼女もまったく別の人生を歩んでいたかもしれないのになぁ…。
あと、前回の返信でモリーとザシュを混同してしまって「依存症を回避する環境としてはモリーは善であり彼女以外は悪であった」に対して頓珍漢なことを書いてしまいました。プレッシャーや誘惑から守ろうとした方ということですね。それなら納得です。
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