映画「ソイレント・グリーン」観ました

読み:そいれんとぐりーん
原題:SOYLENT GREEN
製作:アメリカ’73 98分
監督:リチャード・フライシャー
原作:ハリー・ハリソン
ジャンル:★SF/サスペンス
【あらすじ】2022年、爆発的な人口増加と環境汚染により、ニューヨークの街もかつての姿を失い、この世の終わりのような様相を呈していた。そんな中、合成食品ソイレント・グリーンの製造会社社長が殺され、刑事ソーンが捜査を開始する。やがて、背後に大きな陰謀があるとわかっていき…。
実は記事にできるくらいの感想を2012年に書いていたものの、いまいち自分の中で消化しきれていなくてお蔵入りしていた作品。今回ようやく再見して記事にしてみました。
映画の内容は、環境破壊してばっかりいると食糧危機で緩やかに滅亡するしかなくなるよ、という人類への警鐘モノ。人類の危機になっても生き残るのは金持ちで、民衆は底辺というのがリアルに描写されていました。
アパートの階段には飢えて無気力になった人々が足の踏み場もないほど座り込み、教会には食べ物も寝床もない人々であふれています。仕事と余裕のある一部の人々を除き、人間らしい様子が見られるのは食糧の配給の現場だけ。暴動を起こす時以外はカロリーを消費しないようにじっとしているという、滅びへ向かう世界をありありと描いていました。
主人公の刑事ソーンはまあまともな生活が送れるご身分で、家も食料もある上に、事件現場から生活必需品などを”押収”するのを大目に見てもらっています。
ある富豪の殺人現場で初めて見る生鮮食品をひょいひょいと紙袋に入れ、洗面所で顔を洗って石鹸の香りを恍惚の表情でかぐシーンがいいですね。それだけで満足していた彼が、シャワーを勧められて「お湯が出るのか!?」と驚愕するところも面白いです。あまりにも世界が違いすぎて職権乱用もやりつくせないという。
また、ソーンの相棒ソルとのやり取りも良かったです。過去を知る年寄りを”本”と呼び、刑事の相棒として一緒に暮らしています。合成食品しか知らない世代にとって食事は空腹を満たし生きるための行動でしかなく、老人たちは本物の食事を知っているからこそ満たされないという対比がよかったです。
彼が富豪の家から食料を持ち帰ったのも、最近”ホーム”に行きたがるソルを元気付けるためでした。ソルが作った”贅沢”な食事を堪能するシーンが印象的。ソルは昔を思い返しながら、ソーンは初めての食事らしい食事に戸惑いつつ、それを味わい楽しみます。初めて香りに初めての食感と味。キラキラと目を輝かせる二人が本当に幸せそう。現代人からしたらどうってことないメニューなのに、信じられないくらい美味しそうに見えました。
ただ、女性を”家具”と呼ぶのは正直嫌な感じでしたね。再見なのでそこまで気にならなかったものの、やはり当然のように刑事と寝る”家具”のヒロインの気持ちはよくわかりませんでした。円滑に生きるための行動なのか、ソーンに少なからず希望を見出したのか(部屋の主が殺され、次の住人がいい人とは限らない)。
ヒロインの気持ちはともかく、女性の地位が下がるというのはまあ納得できました。人口増加と食糧危機の世界で妊婦がどんな目で見られるかは想像に難くない(一人では妊娠できないけど目立つ)し、あの世界では女性にできる仕事は限られているでしょうから。
…まあ、ラストで絶望したソーンが口走ったようなことにはならないと思います。飼うではなく狩るの間違いでは?
ところで、ソイレントグリーンは海中プランクトン、ソイレントイエローは大豆由来、じゃあソイレントレッドは何由来だったんでしょう。昆虫食かと思ったものの、従来のレッドよりもグリーンは栄養満点と言っていた気がするし…。現在、一番現実的なのがコオロギやバッタやGなどによる昆虫食なんだよなぁ。
多少古臭さはありますが、オチを知っていてもサスペンスとして引き込まれるものがあったし、テーマはこれから先どんどん現実味を帯びていくもので、ドラマとしても面白かったです。
ホームでの「美しいだろ」「ああ。(こんな美しい世界)想像しようがない」のやり取りも忘れ難いものがあります。自然を大切にしようというメッセージだけじゃなく、神の作った世界を賛美する意味もあったのかも。
あれを見ると、美しい世界を見ながら心穏やかな時を選べるのも一つの幸せだよなぁと思ってしまいます。
- 関連記事
- 「海底2万マイル」観た
■ Comment
宵乃さん、おはようございます
エドワード・G・ロビンソン(確か、これが遺作だったような)が、ベットに横たわり綺麗な風景が写し出されベートーベンの「田園」が流れる
この映画のお陰で「田園」=安楽死のイメージが焼き付いてしまい、以後、何度聞いても上書きが出来ません。(笑〜強烈な印象を受けたという訳ではないのに)
観たの40年前だから、憶えてるのはそのシーンと、ラスト、嘔吐するシーンくらい。(汗)
ほぅ「家具」でしたか、キャロル・リード監督の戦時下を描いた「鍵」もそんな感じでしたね、士官相手の娼婦(ソフィア・ローレン)という感じ(厳密に言えば娼婦ではないのだろうけど〜鍵と共に引き継がれる)
素晴らしいイラストです!
一年前に見たあの映画がまざまざと
よみがえってきました!
今日パソコン受け取りましたが、
おじいさんが具合悪く、
いつ落ち着いて開けられるか分かりません。
ゆっくりお話したいのに!
あの栄養満点の正体は『◎◎◎ん』ですよね~!?
私はそう理解しました。
家具の件は製作年度を考えれば
仕方ないかもしれませんね?
よくはないけど、もちろん。
私も名曲アルバム見聞きして寝ています。
ああ、もどかしい!
また後日戻ってきますね~(^^)/
.
2019/07/05 13:36 miri〔
編集〕
いらっしゃいませ、コメントありがとうございます!
この作品は頭にこびりつくタイプの作品ですよね。鉦鼓亭さんのようにあの曲で安楽死をイメージしてしまう方は多いと思います。とくにクラシックになじみのある方は…。
> ほぅ「家具」でしたか、キャロル・リード監督の戦時下を描いた「鍵」もそんな感じでしたね、〜鍵と共に引き継がれる)
言い方は違えど昔からあるんでしょうね。メイドつきの家とかもありますし。
主人公がヒロインの肌を見て「ほう、暴力はなしか。運がいいな」と言ったり、男の家に若い女がいたら「あんたは家具か?」と言ったり、公然のものとして扱われるところは世紀末感ありました。
> 一年前に見たあの映画がまざまざと
> よみがえってきました!
ありがとうございます。頑張って描いた甲斐がありました。
パソコンが返ってきてよかったですね~。落ち着いたらゆっくりお話ししましょう♪
> あの栄養満点の正体は『◎◎◎ん』ですよね~!?
はい、いちおうネタバレに配慮してみました。配給場所で「大豆由来のソイレントイエロー、海洋プランクトン由来のソイレントグリーン」と放送してるんですが、ソイレントレッドの説明が流れないんですよ。原料は何なの~!!
> 家具の件は製作年度を考えれば仕方ないかもしれませんね?
まあ今も大っぴらではないところで似たような仕事をしてる女性はいると思うんですよね。それをフィクションで描けるっていうのは、ある意味有意義なことなのかもしれないと思いつつ、それはそれとして嫌な感じです(笑)
> 私も名曲アルバム見聞きして寝ています。
睡眠の質が上がると言いますよね。昨夜は3時ごろに目が覚めてずっと眠れなかったので、私もやってみようかな。
>映画の内容は、環境破壊してばっかりいると食糧危機で緩やかに滅亡するしかなくなるよ、という人類への警鐘モノ。
私は近未来は苦手なのですが、この監督さんの作品は合うようで
中3から合うようで(笑)
この作品も非常に胸打たれた部分もありました。
見やすいというか、分かりやすいんですよね☆
>主人公の刑事ソーンはまあまともな生活が送れるご身分で、家も食料もある上に、事件現場から生活必需品などを”押収”するのを大目に見てもらっています。
チャールトン・ヘストンは、この役柄にピッタリでした!
彼だと、こういう刑事がいるって納得できます☆
>また、ソーンの相棒ソルとのやり取りも良かったです。過去を知る年寄りを”本”と呼び、刑事の相棒として一緒に暮らしています。
エドワード・G・ロビンソンさんもはまり役でした!
ご遺作がこれで、当時としては良かったと思えます☆
>現代人からしたらどうってことないメニューなのに、信じられないくらい美味しそうに見えました。
いつそういう時代が来るか分かりませんよね・・・
2022年って3年後だし(笑)。
>あの世界では女性にできる仕事は限られているでしょうから。
ハッキリ言って、男しか生きられなくなっている世界ですよね。
プンプン!
>飼うではなく狩るの間違いでは?
>じゃあソイレントレッドは何由来だったんでしょう。
このあたりの詳細が分からず、ごめんなさい。
>多少古臭さはありますが、オチを知っていてもサスペンスとして引き込まれるものがあったし、テーマはこれから先どんどん現実味を帯びていくもので、ドラマとしても面白かったです。
はい、こうならないようにと、そういう意味でも良い作品でした☆
>自然を大切にしようというメッセージだけじゃなく、神の作った世界を賛美する意味もあったのかも。
どちらも同じ意味に行きつくと思います。
特定の宗教という意味ではではないのでしょうが、
きっと誰もがあの場所ではそういう気持ちに行きつくと思えます☆
>あれを見ると、美しい世界を見ながら心穏やかな時を選べるのも一つの幸せだよなぁと思ってしまいます。
はい、好きな名曲アルバムだけ集めたのをかけながら寝入ると良いですよ♪
是非、宵乃さんもお試しくださいませね♪
***************************
ところで「おさるのジョージ」はEテレでオンエアで良かったでしょうか?
>私にとってテレビはもはや映画とアニメを見るだけのものになってますね…。
「名曲アルバム」とか「コズミックフロントネクスト」とか「ガッテン!」とか
一部NHK関係で良い番組もありますので
是非、お選びになって見て頂きたいなあって思います(ペコリ)
私はNHKの回し者ではありませぬ(笑)。
.
いらっしゃいませ!
フライシャー監督もmiriさんのお気に入り監督でしたか。苦手なジャンルでも安心して見られる監督がいると映画鑑賞が捗りますよね。
> この作品も非常に胸打たれた部分もありました。
> 見やすいというか、分かりやすいんですよね☆
こういった重たいテーマだと妙に哲学的で小難しい作風のSFになりがちですが、この作品はエンタメしつつテーマもしっかり描いてました。さすが名作。オチだけの作品ではなかった!
> チャールトン・ヘストンは、この役柄にピッタリでした!
> 彼だと、こういう刑事がいるって納得できます☆
> エドワード・G・ロビンソンさんもはまり役でした!
この二人は本当にはまり役で、実際に相棒として長年やってきてそうな雰囲気でした。
イラストは絶対二人一緒のシーンにしよう!と心に決めていたくらいです。
これが遺作なら俳優として悔いはないでしょうね~。
> 2022年って3年後だし(笑)。
そういえば!
映画の中の近未来がどんどん現在になっていくのは妙な気分です…。3年後は映画よりましな世界になってるかな~?
> ハッキリ言って、男しか生きられなくなっている世界ですよね。
金や権力を持ってる人たちがみんなして保身ばかりしてたらああなりそうです。もっと自然の回復のための事業に力を注いでいたら、女性の活躍の場もあったでしょうね…。
> 特定の宗教という意味ではではないのでしょうが、きっと誰もがあの場所ではそういう気持ちに行きつくと思えます☆
だからこそ国に関係なく名作として受け入れられているんですね!
「最強のふたり」や「最高の人生の見つけ方」で大自然のある場所に旅行してたのを思い出しました。
> はい、好きな名曲アルバムだけ集めたのをかけながら寝入ると良いですよ♪
> 是非、宵乃さんもお試しくださいませね♪
まず好きな曲が何なのか見つけるところから始めてみます!
> ところで「おさるのジョージ」はEテレでオンエアで良かったでしょうか?
はい、Eテレです。珍しくリアルタイムで見たので6月23日のオンエアですね。
> 「名曲アルバム」とか「コズミックフロントネクスト」とか「ガッテン!」とか
> 一部NHK関係で良い番組もありますので
> 是非、お選びになって見て頂きたいなあって思います(ペコリ)
そういえばネコ歩きはまだ見てます。コズミックフロントとかも時間があれば見たいんですけどね…。最近家族がニンテンドースイッチの新作ゲームをたくさん購入したので、テレビを占領されてなかなか映画も見られない状況です(寝る前にPC画面を見ると寝つきが悪くなるので映画を見るのは夜がいい=家族が遊べる時間とバッティング)
話の内容は違うのですが、藤子・F・不二雄先生の「カンビュセスの籤」を思い出しました。
>環境破壊してばっかりいると食糧危機で緩やかに滅亡するしかなくなるよ
アインシュタンが「もしこの地球上からハチが消えたなら、人類は4年しか生きられない。」
>主人公の刑事ソーンはまあまともな生活が送れるご身分で、家も食料もある上に、事件現場から生活必需品などを”押収”するのを大目に見てもらっています。
僕は苦笑しながら見ていました。
>ソーンの相棒ソル
エドワード・G・ロビンソンが演じました。彼は「十戒」でデーサン(奴隷の監督。裏切り者。)を好演しました(拍手!)
>間諜X72さんのことも応援してます!
ありがとうございます。
今年の春、膝を痛めて(歩くのもしんどい!)マラソンを2ヶ月やめていた頃。
マラソンが絶好調だった時に、それを他人に自慢していた自分の愚かさを知りました・・・(反省)。
2019/08/19 19:49 間諜X72〔
編集〕
> 藤子・F・不二雄先生の「カンビュセスの籤」を思い出しました。
ぜんぜん知らないのでWikipediaで調べてきました。週末戦争後の世界ですか…。「ソイレント・グリーン」の世界もいずれはああなるのかもしれませんね。
> 僕は苦笑しながら見ていました。
おいおい、って感じですよね(笑)
> エドワード・G・ロビンソンが演じました。彼は「十戒」でデーサン(奴隷の監督。裏切り者。)を好演しました(拍手!)
素晴らしい俳優さんだと思います!
> マラソンが絶好調だった時に、それを他人に自慢していた自分の愚かさを知りました・・・(反省)。
その経験をもとに高みを目指していらっしゃるんですね。
新たな目標に向かって歩き出せるのは、これまで間諜X72さんが頑張ってきたからだと思いますよ~。
宵乃さん、私も今夏に「ソイレント・グリーン」を再見したところでした!映画の世界観としては、きっと当時は"衝撃"な映画だったのかもしれませんが、今観るとかなり有り得る話に見えるところがある意味"怖い"ですよね。
私も鉦鼓亭さんが仰っていたのと全く同じでして、この映画を観て以来、最後の「田園」とペールギュントの曲を耳にすると安楽死の悲しさが思いされて切ない気持ちが思い出されてしまいます。日曜の朝にNHKラジオで「音楽の泉」という番組があるのですが、一度この曲が流れた時があって、朝から口数が少なくなってしまった・・・^^;
チャールトン・ヘストンとエドワード・G・ロビンソンの二人がとても良かったですね。DVD解説にもあったのですが、ロビンソンは実際に癌に侵されて体調が良くなかったこともあり、ヘストンは「ホーム」のシーンでは本当に泣いていたそうなんですね。この二人の関係性が穏やかであればあるほど、映画の中の世界の悲惨さが増して遣り切れない気持ちになります。
むかしの映画ですけれど、良い映画というのはやはり多くの人に評価されて沢山の人の心に残っているものなんだなぁ、と宵乃さんの記事にある皆さんのコメントを読んで思いました。
いらっしゃいませ、はなまるこさんも「ソイレント・グリーン」再見されてたんですか!
ホント、近い将来こうなってしまうんじゃないかという焦りを感じる作品ですよね。海外では人工肉を扱うところもでてきましたし…。
> この映画を観て以来、最後の「田園」とペールギュントの曲を耳にすると安楽死の悲しさが思いされて切ない気持ちが思い出されてしまいます。
やはりクラシックに馴染みがあると曲の印象が変わるほどの衝撃ですか。音楽音痴の私はある意味ラッキーだったのかも?
> ヘストンは「ホーム」のシーンでは本当に泣いていたそうなんですね。この二人の関係性が穏やかであればあるほど、映画の中の世界の悲惨さが増して遣り切れない気持ちになります。
役を超えての友情…聞いただけで目頭が…!
初見時はやりきれなくて二度は観ないかと思ってたんですが、それでも気付けば再見していたのはそういうリアルな感情が心に残ったからでしょうね。
> むかしの映画ですけれど、良い映画というのはやはり多くの人に評価されて沢山の人の心に残っているものなんだなぁ、と宵乃さんの記事にある皆さんのコメントを読んで思いました。
私も皆さんのコメントに名作たるゆえんが見えた気がします。記事を書いてよかった!
コメントありがとうございました。