映画「手紙は憶えている」観た

原題:REMEMBER
製作:カナダ・ドイツ’2015 95分
監督:アトム・エゴヤン
ジャンル:★サスペンス/ドラマ
【あらすじ】最愛の妻に先立たれ、認知症が日々悪化している90歳の老人ゼヴ。彼は友人マックスから託された手紙を頼りに、ある使命を一人で果たそうと養護施設を抜け出す。その手紙には、かつてアウシュヴィッツ収容所で看守を務めていた男のことが書かれ…。
珍しく邦題が良いですね。「REMEMBER」だけだとさすがに味気ないし、他作品と被りそう。
この作品は私の嫌いな要素を含む復讐モノだったんですが、自分でも驚くほど楽しめました。理由は色々あって、とりあえず認知症の主人公ゼヴの危なっかしさは、なかなか他では見られません。復讐どころか一人旅も危ういレベルで、オチが見えてても主人公の一挙一動にハラハラしてしまうんですよね。道を尋ねても道順を覚えられず、何度「ご案内しましょうか?」と手助けされたことか!
しかも、それを演じているのが「サウンド・オブ・ミュージック」でトラップ大佐を演じたクリストファー・プラマーなんですよ。時折、自分が何でここにいるのかわからなくなり、不安げに亡き奥さんを探す姿が真に迫ってました。
以下ネタバレ注意!
私の嫌いな要素というのが、復讐モノに多い「(騙されて)復讐相手を間違える」ことで、この作品はある意味当て嵌っているし当て嵌っていないとも言えます。
実は、本当の復讐者は自称友人のマックスでゼヴはアウシュビッツの看守、つまり彼自身が復讐のターゲットなんですよね。もう一人、ゼヴと一緒に罪を逃れた看守仲間がいて、その男にたどり着けばゼヴは遅かれ早かれ真実を知ることになります。そして、警察沙汰になって必死に隠し続けてきた過去の罪を暴かれることに…。
復讐される側の目線で描かれる復讐モノって、結構珍しいんじゃないでしょうか?
しかも、本人は自分が復讐者のつもりなんだから皮肉です。
愛称”ゼヴ”がヘブライ語で狼を指していること、腕の番号を強調してることなど、彼の正体を匂わせる描写が結構あって、割と早い段階で気付きました。おかげで、彼がホロコーストについてどう感じているのか考えながら見られたんですよね。
ネオナチの男が自慢気にナチスゆかりの品を見せていた時、家族を殺した(と信じ込んでいる)相手を撃つために銃を入手した時、そしてイラストにも描いたアウシュビッツにいたユダヤ人に(看守だと思って銃を向けたことを)泣いて謝った時…。被害者側の目で自分たちの罪を見て、モヤモヤと言葉には表せない感情が湧いてきて戸惑っていたように見えます。
認知症は最初からかなり進行していましたが、旅を続けるにしたがって進行が早くなっているようでした。きっと心の奥底でかなりのストレスを受けていたんだと思います。…そして、ゼヴを襲うその不安が、ただの手紙に書かれた使命に縋りつかせたんじゃないかと。
覚えてなくても自覚していなくても、マックスが突き付ける過去の罪はゼヴを責め続けていたと思います。手紙に書かれた”復讐者”という役になりきることで、少なからず不安から逃れられたのではないでしょうか?
ラスト、子供にトラウマを残しそうな行動をとったことは残念でしたが、それ以外は見ごたえある作品でした。
■ Comment
これ、衝撃の結末!とか書いてあったものだから、
逆に考察しちゃって、私も早々に主人公の正体に気づいてしまったんですよね。
だから、宵乃さんがおっしゃるように、
>被害者側の目で自分たちの罪を見て、モヤモヤと言葉には表せない感情が湧いてきて戸惑っていた
のだと思います。
戸惑っていたのもあるし、その先の「なんてことだ」という
国勢的な総意もあったのかも。
私たちの誰だって、「自分がユダヤ人で収容所に入れられて家族を殺された」なんて過去をもっていたとしたら、「何だってー!」と思っちゃうと思います。
まさに、収容所にて人生を壊されてしまった人が持つ執念の凄まじさをひしひしと感じた作品でした。
いらっしゃいませ!
宣伝の仕方って重要ですよね。まっさらな状態で見れば楽しめたかもしれない作品も、宣伝のせいで魅力半減なんて悲しい…。ラストのどんでん返しを強調する宣伝はマジで消えてほしいです。
> 私たちの誰だって、「自分がユダヤ人で収容所に入れられて家族を殺された」なんて過去をもっていたとしたら、「何だってー!」と思っちゃうと思います。
ホントそう思います。それを復讐相手に疑似体験させるというのは、復讐方法としてかなりスマートなやり方でした。
> まさに、収容所にて人生を壊されてしまった人が持つ執念の凄まじさをひしひしと感じた作品でした。
ラストのニュースを見て、周りの人にゼヴの罪を語るシーンが印象的でしたね。
すべてをやり遂げて、これで天国の家族に顔向けできるという感じでした。
観ましたよ~この映画。で、私も「どんでん返し」宣伝、ほんと頭に来ました!
このせいで「先が読めたから大したことないじゃん」的な感想が生まれてしまって、これって自ら作品の価値を貶めているのと同じですよねぇ。その宣伝の仕方は違うだろ、ちがうだろー!!って思いました。
そうそう、ところで宵乃さんの感想を読んでいて
>道を尋ねても道順を覚えられず、何度「ご案内しましょうか?」と手助けされたことか!
というところで、最初の列車で一緒だった少年&兄ちゃんたちのことを思い出しました。
駅に到着して、少年のお父さんと会うじゃないですか。あの場面、普通の流れで考えると下車→ハイヤーに乗るまでのことでしかなくて、最初は大して詳しく描かなくてもいいように思ったんですよ。その後の何にも繋がらないのかーと肩透かしをくらったのですが、皆出てくる人たちが心配してくれる良い人、良い家族で、そういう優しさのある日常生活の中に「元ナチス」が存在しているというギャップとか、過去に犯した罪の深さなどが後からドーンと圧し掛かってきました。
認知症ってストレスでも進行するっていいますもんね。確かにもやもやとした不安が、この旅の中でずっとあったのでしょうね。
>手紙に書かれた”復讐者”という役になりきることで、少なからず不安から逃れられたのではないでしょうか?
ほんと、確かにそうかもしれませんね。
そう思いながら今宵乃さんのイラストを見直すと、すごく哀しくて切ない気持ちになりました。宵乃さん、上手すぎる・・・・
2018/03/23 20:51 はなまるこ〔
編集〕
いらっしゃいませ!
はなまるこさんも宣伝の餌食になってしまいましたか…。そうなんですよね、変な風に煽るから先が読めたことでまずガッカリ感が来てしまうんですよね~。宣伝する人は自分の仕事がもたらす結果をちゃんと受け止めてほしいです!!
> そういう優しさのある日常生活の中に「元ナチス」が存在しているというギャップとか、過去に犯した罪の深さなどが後からドーンと圧し掛かってきました。
そうそう、みんな”ちょっとボケ気味なおじいちゃん”に対して親切で、そのくだりだけ見ると心温まるロードムービーみたいなんですよね。元ナチスじゃなくても、気付かないうちに恐ろしい過去を持つ人と接点を持っているかもしれないと考えてしまいました。あと、マックスさんは長い間「どこかに仇がいるかもしれない」と目を光らせて人混みを見ていたのかな、とも。
> そう思いながら今宵乃さんのイラストを見直すと、すごく哀しくて切ない気持ちになりました。
ありがとうございます。あのシーンは患者さんだけでなく神に対しても懺悔してるようでしたね~。
この映画を見ました☆
前にも書きましたが、2年くらい前に映画館で見たかったのですが
時間が合わず、他の作品にしたのでオンエアを待っていました!
でも、見終わって一番に思ったのは、
「映画館で見なくて良かった」という事です。
宵乃さんと違って、私はこんなに簡単などんでん返しに引っかかって
お恥ずかしい限りです(笑)。
>そしてイラストにも描いたアウシュビッツにいたユダヤ人に(看守だと思って銃を向けたことを)泣いて謝った時…。
ここは良かったですね!
イラストもじーんとします。。。
>認知症は最初からかなり進行していましたが、
若い時の事はけっこう覚えていると思うんですが
そうではないのでしょうか?
マックスさんが違う記憶を誘導して悪い事は分かるけど、
何というか設定に無理があるような気もしました。
>ラスト、子供にトラウマを残しそうな行動をとったことは残念でしたが
ここが一番許せなかったです。
何も孫を登場させなくても、お母さん(娘)だけでも良かったと思いました。
2018/07/16 08:01 miri
いらっしゃいませ!
miriさんはあまり楽しめませんでしたか。観たのがオンエアで良かったですね。
> ここは良かったですね!
> イラストもじーんとします。。。
この作品で描きたかったシーンの一つなんだと思います。胸に迫るものがありました。
> 若い時の事はけっこう覚えていると思う
私もそこは少し引っかかったんですが、彼自身が過去を忘れ去りたいと強く願っていて、あの時期の自分を自分ではない何かだと切り離していたのかなと。ユダヤ人として愛する家族と暮らしていた時間は、彼にとって幸せである反面、自我を崩壊しかねないストレスにさらされていたでしょうし…。
いろんな視点で彼をみることで、あの時代のことを深く考えさせるのが、この作品の目的だったと思います。
あと、いちおう認知症は段階があって、彼の場合は「エピソード記憶の障害」まで来ているようです。→認知症ねっと https://info.ninchisho.net/symptom/s20#id3
> ここが一番許せなかったです。
> 何も孫を登場させなくても、お母さん(娘)だけでも良かったと思いました。
ホントそうですよね。ここさえなければ積極的にお勧めしたい作品になるんですが…。若い世代へのメッセージは、病院でナチ(だったかな?)が読めない少女のエピソードで十分伝わったと思います。
コメントありがとうございました。