映画「異人たちの棲む館」観ました
原題:MAGNIFICA PRESENZA
製作:イタリア’2012
監督:フェルザン・オズペテク
ジャンル:★コメディ/ドラマ
【あらすじ】ローマの高級住宅地に格安アパートをみつけ、一人暮らしを始めた俳優志望のピエトロ。夜はパン屋で働き、夢の新生活に思いを馳せながら部屋の改装行うピエトロだったが、実はそこには先住者がいて…。
これはよかったですね~。gyaoはたまにこういう良作を発掘してくれるから好きです。地味ながら、コミカルでファンタジックで胸があったかくなるような私好みの作品。ゲイの主人公が受け付けないという人以外なら楽しめると思います。ホラーみたいな邦題だけど、怖くはないよ!
まず何が良いって、主人公ピエトロと借家の先住者たちが、愛すべきキャラクターになっているところでしょう。
ピエトロはゲイと言っても恋人いない歴=年齢という感じで、情熱は秘めてるけど上手く伝えられないタイプ。思いがけず先住者と出くわしても、押しが弱くて追い出せません。
しかも辛抱強い上に根が優しいから、いつの間にか彼らを受け入れてしまうんですね。
一方、その先住者というのが実はとある劇団の俳優たちで、どことなく「アダムスファミリー」に似た雰囲気。とくに、小太りな少年とダンディなヒゲの紳士、古風で品のある恰好をした団員8人がずらっと並んでいると、どこか懐かしさを感じます。
でも、あそこまで浮世離れした人たちではなく、主人公が怯えれば落ち着かせようとするし、失敗すればやんわり助言、オーディションに行く前にはみんなで演技指導までしてくれる気さくな人たちです。
ずうずうしいところもあって、居候のくせに練習の邪魔をしないでくれと言ったり、家を「ネズミの巣」呼ばわりしたり、ピエトロが欲しがっていた激レアなカード(イタリアの歴史上の偉人が描かれた実在するカード)をパクッたり…。
でも、いつの間にか彼の孤独を癒してくれる存在になっていくんですね。
とくに、ピエトロが彼らを受け入れるきっかけとなった詩人が面白かったです。夜、自室で寝ている主人公の顔をジッと見つめるという一歩間違えば変質者な人で、目覚めたピエトロに「私が画家なら、あなたの輝かしい寝顔を絵にできるのに…」とか、代わりに歯が浮くような詩でその寝顔を讃えたりするんですよ(笑)
ロマンティックすぎて聞いてるだけで恥ずかしいわっ!
まあ、初な主人公はそれですっかり気を許しちゃうんですけどね。それから進展するわけではないものの、彼のおかげで気持ちを切り替えられたのは確かです。
そして、彼らとの交流のなかで変わっていく主人公が、内面的な成長はあっても、一朝一夕で成功を掴むようなご都合展開がないのも良かったです。
まあ、俳優を目指すゲイの主人公が、名一座の団員&ゲイの詩人と出会うこと自体がご都合主義だと言われればそうなんですが、そこはすんなり運命と思えました。
以下、ネタバレあり!
あと、何気に台詞が良いんですよね〜。印象に残るフレーズだったり、哲学的だったり。
殴られて倒れていたオカマの人を手当てするエピソードも素晴らしかった…。
団員の一人が「何の役を演じてるんだ?」と尋ねると、「ただ自分を演じてるだけ。リアルな虚構が一番自然なの」と深いお言葉。このやり取りは、彼らの合言葉「虚構だ、虚構だ」「虚構ではなく現実だ」というのにもかかってるのかな?
最初は不思議な居候の存在を「よい孤独撃退法ね」と言っていた彼女が、帰り際には「こんな私が自分を信じてるんですもの。幽霊ぐらい」と見えない彼らの存在を完全に認めてくれるのが素敵。
主人公のいちばんの親友である女性(親戚)はまったく信じてくれなかったからね〜(当然だけど)
後半、頼まれた人探しを始めてからはコミカルさは薄れ、彼らの人生が垣間見えるドラマが展開されます。
過去と戦争の傷跡、そして大きな希望…。インターネットの向こう側でも、元気な姿が見られただけでどんなに嬉しかったことか…。
ラスト、束縛するものがなくなり外に出てからは、台詞がなく微笑みあうだけで気持ちが通じ合うように描かれているのが良かったです。
ピエトロに連れられてやってきた場所で、幽霊たちは彼のために演じます。
エンドロールではそれを観るピエトロの顔のアップだけが映されるんですが、劇に対する反応と、彼らとのこれまでの時間を振り返るような表情が繊細に表れ、感動で胸が一杯なのが伝わってきました。
これでお別れだったとしても、きっと彼らと過ごした掛け替えのない時間は彼の中でずっと息づいて、将来立派な俳優になるだろうと思えます。
あと、ご近所さんの青年との恋の予感もあったし、仲良しの親戚もたくましく生きていくでしょう。
ちなみに、原題は「素晴らしき存在」という意味。邦題はまあアノ作品を意識してるのかな。知ってる人にはネタバレな邦題だけど、そもそも映画情報サイトなどを見ると、彼らが幽霊だという事まであらすじに書いてあるからね…。
知っていても十分楽しめますが、どうせなら知らないまま観た方がいい気がします。