忘却エンドロール

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映画「悪魔の手毬唄(1977)」観ました

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Tag:市川崑 横溝正史 日本 

悪魔の手毬唄(1977)
製作:日本’77
監督:市川崑
原作:横溝正史
ジャンル:★ミステリー/サスペンス

【あらすじ】古い因習がいまも力を持つ鬼首村にやってきた金田一耕助。だが、村に伝わる手毬唄の歌詞に見立てた殺人事件が発生する。捜査を始めた金田一と磯川警部は、由良家と仁礼家の因縁や、20年前に起こった殺人事件の真相に迫っていく。

「悪魔の手毬唄」は古谷一行版と、古谷さん2時間ドラマ版、そして石坂さん版という流れで観てきましたが(稲垣版は見たかも?)、これは1・2回観ただけじゃわからないですね~。トリックではなく犯人の心情が。
そんなわけで、石坂さん版を短期間で3回くらい観てしまいました。私的に異例のことだし、再見がまったく苦にならない!
脚本や登場人物&キャストの魅力と、変なところで画面が変わって毎度「え、ここで!?」と驚かされたせいかも(笑)
とくに、冒頭で誰かを探しに出たリカさんが落石に驚くシーンとか、唐突だし最後まで意図が謎でした…。凶兆?
あと、金田一が新事実を突きつけられて、すばやくアングルが切り替わるシーンを観て、アニメ「絶望先生」の元ネタはこれか!と思ったり。
手毬唄をワンテンポ遅れで教えてくれるお婆さんも印象的です。あの手まりの動きが妙に気持ち悪くて、でもお婆さんはとてもとても可愛くて、アンバランスなところが素敵。人形が鞠をつく映像では、鞠を人間の手で動かしているように見えたから、お婆さんの時もそうしてたのかも?

でも、最も惹かれたのは観るたびに印象が変わるリカさんでした。
→以下ネタバレ注意!

前に観た映画やドラマ版では彼女の心情がまったくわからず、「結婚させられないからって殺す事ないじゃない!」とか思ってたんですよね。村を出られず息子にも打ち明けられないなら、相手の親に「息子も恩田との子供だ」と嘘を吐くことだってできます。これなら夫に裏切られたと村人に知られることもないし。

それが今回の石坂版を観て、結婚させられないというのはただのきっかけで、本音は夫がよその女に産ませた子供の”存在自体が許せなかった”という事なのかなと…。
憎いというよりは存在を許せない、彼らが消えれば夫が浮気したという事実も消えるし、本当に自分は恩田に夫を殺された可哀相な未亡人になれる…そんな思いが深層心理にあったのかもと思えました。
里子が不憫だと言っていたけど、里子を見るたびに思い出すあの日の自分を憐れんでいるんでしょ、と思ったり。

そして再見では、「犬神家」のように彼女は放庵の悪意によって操られ、悪魔に魅入られ狂ってしまったのかとも考えました。
放庵がどこまで計画していたのかはわかりませんが、夫の秘密を彼女に教えたのも、この村に伝わる手毬唄(恨みのある由良家や仁礼家の娘が殺されるような歌詞)を記したのも彼であり、それがなければリカさんは殺人事件など起こさなかったでしょう。
もしそうなら彼女も可哀相なひとなのかもと少し同情してしまったりも。

それが3回目の鑑賞でまたまた覆ったんですよ。
やはり本当にわが子を想っているなら、彼らの恋人や親友たちを、あんなに計画的に冷酷に殺すなんてできません。ましては血のつながった兄妹を。
「犬神家」では他の兄弟は”敵”だったけど、この作品の子供たちは”親の事は関係ない”と仲良くできる、明るく優しい普通の子たちです。
この村は戦後荒んでいたというものの今の状態はそれほどには見えず、それもきっと彼らがいたからだと思うんですよね。
それを衝動殺人ではなく、かなり長期にわたって(民間伝承を読んだ時か、おりんの封書を手に入れた時から?)計画して実行に移し、その間、里子を殺してしまうまで一度も我に帰ることがなかったというのは、母親として人間として、どこか欠けていたんだとしか思えません。
悪魔にとり憑かれたというより、彼女自身の中に悪魔が潜んでいたのかなぁと…。

まあ、彼女がそんな女性だからこそ、里子の想いや息子の叫び、磯川警部の悲哀が胸に迫ってくるので、彼女はこれでいいんですけどね。
…しかし磯川警部の空回りっぷりというか、裏目感というか、頑張れば頑張るほど苦しめていたというのがホント切ないです。
リカさんはあからさまに彼を避けていたのに(笑)
その上、真実を知ってもなお変わらず彼女を愛し続けてるんですから…刑事向いてないかも!
金田一が「愛してらしたんですね」と問うラストが印象に残ります。

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■ Comment

No title

 宵乃さん、こんばんは

青地リカの考察、大変興味深く読ませて頂きました。
原作のリカは最初の考察の通りだと思います。
夫がよその女に産ませた子供の”存在自体が許せなかった”
(それが皆、美人。正妻の自分の娘だけが因果の報いを受けてる)
その抑えに抑えてたジェラシーがスターの帰還で爆発してしまうんですね。
原作のリカは余り同情出来ないタガの外れた殺人鬼。

映画では、お庄屋を悪人に仕立て上げ、罪の一端を背負わせる事によってリカのジェラシーの部分をぼかし、糟糠の妻、正妻のプライドをズタズタにされた哀れな女の愚かな行為。
「酷い男」を愛し抜いた一途さを強調していたと思います。
それは、宵乃さんの仰るように、全ては磯貝警部とリカのすれ違いにドラマ性を持たせる為の作為だったのではないでしょうか。
だからこそ、シリーズ最高とも評判の高いラストシーンが生まれたのだと思っています。

原作の青地リカはもっと狡猾で、あの岸恵子とはイメージがチト違うのですが、市川版の青地リカならちょっと抜けてる岸恵子が意外に合ってる、と今は思っています。

お婆ちゃん>原ひさ子さんですけど、大仏さん、いや、小さいから小仏さんか、何か「ありがた味」のあるお姿でした。(笑)
原作だと、呆けてるんだか底意地が悪いんだか解らない人なんで、「犬神家~」(石坂版~宵乃さんは古谷派でしたっけ)で松子の母を演じた原泉さん(紛らわしい(笑))がピッタリなんだけど、この映画なら原ひさ子さんが適役かもしれません。
(ひさ子さんも嫁にコッソリ意地悪してアッカンベーしてる役を何度も演じてますけど、この人の場合、いつも茶目っ気が有って憎めない)

※落石>何だったでしょうね(笑)。
2014/04/15 23:50  鉦鼓亭編集

>鉦鼓亭さん

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
昨日は名前を書き忘れてしまってお恥ずかしいです。つい先日も、他の方のブログで名前を忘れたばかりなのに!
本気で痴呆症が心配になってきた…。

> (それが皆、美人。正妻の自分の娘だけが因果の報いを受けてる)
> その抑えに抑えてたジェラシーがスターの帰還で爆発してしまうんですね。
> 原作のリカは余り同情出来ないタガの外れた殺人鬼。

原作のリカさんは怖いんですね…お庄屋が悪人なのは映画のオリジナルだったとは。
確かにこの点があるから、リカさんのあの「それでも好きだった」のセリフが際立って、なんとなく誤魔化されそうになります(笑)
映画のリカさんも、頭巾をとった里子について尋ねられた時、「お友達が次々亡くなったから…」と答えるシーンはゾッとしましたが。

> 全ては磯貝警部とリカのすれ違いにドラマ性を持たせる為の作為だったのではないでしょうか。

磯川警部のロマンスについては原作通りなんですよね?
たしかに嫉妬に狂った殺人鬼より、一途な愛を持った女性に惹かれる方が切なくていいです。
独自の解釈で原作とは違う魅力がうまれるのも映画化の醍醐味ですね~。
原作のイメージに引きずられず、市川版のリカをしっかり演じた岸恵子さんはすごいです!

> 原作だと、呆けてるんだか底意地が悪いんだか解らない人なんで、「犬神家~」(石坂版~宵乃さんは古谷派でしたっけ)で松子の母を演じた原泉さん(紛らわしい(笑))がピッタリなんだけど、この映画なら原ひさ子さんが適役かもしれません。

原作ではわざと事件の後に教えるんですかね?(笑)
松子の母親役の方ですか~、覚えてないけどあの作品の雰囲気から考えると、なんとなく想像つきます。この映画のおばあちゃんはマスコットレベルの可愛さで、この作品だからこそピッタリ嵌ったんですね。
ちなみに、犬神家はどちらも好きですよ~。思い入れがあるのは古谷版で、何度も観たいのは石坂版かな?

> (ひさ子さんも嫁にコッソリ意地悪してアッカンベーしてる役を何度も演じてますけど、この人の場合、いつも茶目っ気が有って憎めない)

その様子が目に浮かぶようです。
あの方にアッカンベーされたら、なんだか平和って素晴らしいなぁという気分になれそう(笑)
2014/04/16 11:07  宵乃〔編集

今日はコメントを有難うございました☆

>金田一が「愛してらしたんですね」と問うラストが印象に残ります。

素敵なイラストで、目にも、身にも、こころにも、しみますよ~!!!

リカさんについてお時間かけて考えられて素晴らしい記事です~☆
宵乃さんの情熱がとっても伝わってきました~♪


.
2014/04/17 14:55  miri〔編集

>miriさん

> 素敵なイラストで、目にも、身にも、こころにも、しみますよ~!!!

ありがとうございます。
本当は哀愁漂う磯川警部を描きたかったんですが、背景がごちゃごちゃして無理そうだったのでこちらに妥協しちゃいました。

> リカさんについてお時間かけて考えられて素晴らしい記事です~☆
> 宵乃さんの情熱がとっても伝わってきました~♪

いえいえ、半分はいつもの暴走です。
名作と言われている作品の面白さが最初はよくわからなかったので、意地になってたのもあるかな~(笑)
2014/04/17 15:25  宵乃〔編集

No title

こんにちは!!

鉦鼓亭さんとmiriさんがお書きになられていることで、もはやコメントすることがない感じですが(笑)。

やっぱり、ラストシーンは好きですね。
金田一でこんなラストを感じされるものは
ない(映像化されたものでは)
この作品が一番だと思います。
それでは!!
2014/04/19 13:30  きみやす

>きみやすさん

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます♪
やはりこの作品はラストが白眉ですよね~。

> 金田一でこんなラストを感じされるものは
> ない(映像化されたものでは)
> この作品が一番だと思います。

お~、さすが名作と言われる作品です。
今まで観てなかったのが不思議なくらいです!
金田一ファン以外でも、この作品のラストが心に残っているという方は多そうですね。
2014/04/20 09:49  宵乃〔編集

こんにちは

爽やかな金田一さんですね!
ラストはコチラが素晴らしいのですが、
お話的には私はドラマ版のほうがよくできてたなと思います
両方のいい所を混ぜたらもっと良い作品になったのでは、と残念であります(原作が好きなだけに)
どちらも不満があり、どちらもいい部分があるんですよねー

もう絶対に原作読むべきです!
考察しちゃうくらいなんですから、レッツ図書館!
2014/08/13 17:15  maki編集

>makiさん

> 爽やかな金田一さんですね!

ありがとうございます♪
あのラストの清涼感はたまらないですよね。

> 両方のいい所を混ぜたらもっと良い作品になったのでは、と残念であります(原作が好きなだけに)
> どちらも不満があり、どちらもいい部分があるんですよねー

もう脳内補完するしかない!(笑)
市川さんがドラマの監督をやってたら、また評価が変わってたかも。

> もう絶対に原作読むべきです!
> 考察しちゃうくらいなんですから、レッツ図書館!

あはは、やっぱり読むべきですかね。
近所の図書館超ヘボいけど、置いてあるかなぁ?
2014/08/16 21:15  宵乃〔編集

皆さんのコメントで気になっていた映画

「A.I.」が気になりながらも(まだ手に入れていません)、先にBSで放映された『悪魔の手毬歌』を見ちゃいました。
封切された当時ポスターが生々しくて全く観る気になれなかったけれど「エクソシスト」のこともあるしねぇ~。
新しい発見がありそうと。
およそ同年代の頃の作品じゃないかな??

いやあ、良かったです。
妙齢だった女優さんらも懐かしく拝見できました。
白石加代さんはあの頃から凄味があったんだ。

>夫がよその女に産ませた子供の”存在自体が許せなかった”という事なのかな

たぶんそうでしょうね。しかも正妻だった自分が生んだ里子に限って赤痣があり不憫でしかたがなかった・・・。

里子をもっと知りたく原作を読みたくなっています。

昔の同僚が「横溝正史は巧い作家だ」と褒めていたのに、
私は悪趣味だと手を出さなかったのですよ。
今再たのチャンス到来かもしれませんね。
2014/09/16 16:00  しずく〔編集

>しずくさん

お、「悪魔の手毬歌」をごらんになられたんですね!

> 封切された当時ポスターが生々しくて全く観る気になれなかったけれど「エクソシスト」のこともあるしねぇ~。

素晴らしいチャレンジ精神だと思います♪
意外と食わず嫌いな作品って多いですよね。
わたしも衛星映画劇場を片っ端から観るようになって(笑)、かなり好きな作品の幅が広がりました。

> 妙齢だった女優さんらも懐かしく拝見できました。
> 白石加代さんはあの頃から凄味があったんだ。

好印象なようで良かったです。
石坂版の女優陣もいいけど、古谷版(TVシリーズ)もいいですよ。

> たぶんそうでしょうね。しかも正妻だった自分が生んだ里子に限って赤痣があり不憫でしかたがなかった・・・。

どうしても比べてしまいますよね…。
全てはあの夫が悪いのに、割り切れずに凶行に走るリカさんが哀しいです。

> 里子をもっと知りたく原作を読みたくなっています。

わたしも暇が合ったら少し遠くの図書館に行って借りたいんですよね。
…でも時間が~。

> 昔の同僚が「横溝正史は巧い作家だ」と褒めていたのに、
> 私は悪趣味だと手を出さなかったのですよ。

CMなどでイメージが先行してますから、わたしも昔は同じように思ってました。
しずくさんにとって良いきっかけになってよかったです♪
2014/09/17 07:58  宵乃〔編集

No title

落石は、一度転がり始めた石は止まらない→泰子を殺したあと、タガが外れたかのように人殺しを続ける犯人=リカの暗示だったのではないかと。
2015/10/07 20:49  通りすがり

>通りすがりさん

コメントありがとうございます。
おかげで謎が解けましたよ~。リカのこれからを暗示しているというお言葉に、もやもやが一気に晴れていきました。素晴らしい考察だと思います!
本当にありがとうございました♪
2015/10/08 08:01  宵乃〔編集

悪魔

こんばんは。

>手毬唄をワンテンポ遅れで教えてくれるお婆さんも印象的です。

原ひさ子さん。好演です。

>磯川警部の空回りっぷりというか、裏目感というか、頑張れば頑張るほど苦しめていたというのがホント切ないです

見ていて辛く思いました。

>「犬神家」では他の兄弟は”敵”だったけど、この作品の子供たちは”親の事は関係ない”と仲良くできる、明るく優しい普通の子たち

鋭い分析!恐れ入りました。
2019/12/06 17:51  間諜X72〔編集

>間諜X72さん

> 原ひさ子さん。好演です。

トリックは忘れかけてますが、あのおばあちゃんの姿は今でもハッキリ目に浮かびます。

> 見ていて辛く思いました。

この作品はロマンスものとしても優れてましたね~。

> 鋭い分析!恐れ入りました。

考えれば考えるほど考察が捗る作品でした。見る人によって色んな解釈があっていいと思えるミステリーも珍しいかも?
コメントありがとうございました。
2019/12/07 09:06  宵乃〔編集
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「悪魔の手毬唄」
 「悪魔の手毬唄」(1977年・日本)    監督 市川崑    原作 横溝正史    脚本 日高真也  市川崑    美術 村木忍    撮影 長谷川清    照明 田中信行    音楽 村井邦彦    出演 石坂浩二        岸恵子        若山...
セピア色の映画手帳|2014-04-15 23:52
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