映画「バリー・リンドン」観ました
キスシーンより、触れる直前くらいが画的に好き。
読み:ばりーりんどん
原題:BARRY LYNDON
製作:イギリス’75 186分
監督:スタンリー・キューブリック
原作:ウィリアム・メイクピース・サッカレー
ジャンル:★ドラマ/歴史劇
【あらすじ】18世紀アイルランド。恋敵の英国将校に決闘を申し込み、相手を殺したと思い込みダブリンへ身を隠すことになったレドモンド。途中追い剥ぎに遭い、やむなく英軍に志願するのだった。その後も運命に翻弄されながら、やがて英国貴族にのし上がり…。
なんとな~く観始めたんですが、主人公が魅力的でもなく淡々としたストーリーなのにも関わらず、いつの間にか引き込まれていました。淡々としたのが結構好きなのもあるんですが、何よりこの時代が忠実に再現されているというのが素人の私にも何となく分かってしまう凄さ。そして空気のにおいまで伝わってきそうな映像美。…時間を忘れてしまいます。
面白かったのが、この時代流の”何でもかんでも決闘で解決しようとして、あまつさえ撃つ順番までコイントスで決めてしまう”滑稽さ。あからさまにビビッてるのに、プライドのために決闘を受けたり申し込んだり…しかも、後先考えてないから一体何をしたいのやら。
あとは貴族の間で流行っていた”つけぼくろ”が再現されていて驚きました。
部屋中の男女が白い顔に2コ以上ほくろをつけている様子は、はっきり言ってかっこ悪いのを通り越して不気味です。
調べてみたら、つける位置によって意味があるんですね。面白いのでまとめてみました。
- 額:威厳
- 目元 : 情熱
- 笑い皺の上 : 陽気
- 頬 : 粋な洗練(英国男性の場合、左頬は“王党派”右は“中立派”)
- 上唇の上 : キスの許し
- 下唇の下 : 慎み
- あごのふち : 謙虚
ビジュアルより時代考証を重視するなんて凄いなぁと思っていたら、監督がスタンリー・キューブリックだと後で知りました。納得です。
<2018/06/19 再見>
初見時も思ったけど、さして魅力的ではない主人公が偉業を成し遂げるわけでもない物語なのに妙に惹かれるんですよ。3時間あっても全然退屈しないのはキューブリック監督のマジックなんでしょうか?
後半なんてレディ・リンドンがいたからこそですよね。彼女がいなければバリー・リンドンは存在しなかったんだから、これはレディ・リンドンを描いた作品とも言えるかもしれません。
前半のバリーを見ると情熱的でまっすぐで、戦場でも当然のように負傷者を助ける姿から、勇敢で情に厚い男だというのがわかります。シュバリエと出会って涙ながらに事情を打ち明けるシーンは、彼が感情を露にした数少ないシーンの一つ。なんだかんだで本質は普通の善人だったんだと思います。レディ・リンドンはそういうところに惹かれたのかも?
けれど、命を懸けた決闘で金のための不正が行われたこと、英軍でもプロイセン軍でも強奪などがまかり通っていたこと、賭博師となって目の当たりにした貴族社会のくだらなさなど、世の中の醜い面を見るうちに彼は変わっていきます。彼自身もそれに染まっていってしまうんですよね。
浮気現場を目撃されてすぐさま奥さんと仲直りしたのも、彼女に見限られれば自分自身には何の力もないと思い出したからでしょう。もはや金と権力がすべて。
それを多少なりとも変えたのは自分の分身ともいえる最愛の息子。こんな醜い世の中のことなんて知らずに育ってほしいとばかりに、嘘っぱちの英雄譚を語り、望みは何でも叶え、彼の安泰を保証する地位を得ようとなりふり構わなくなっていきます。破滅のきっかけとなった母の助言が憎たらしい!
こんな家庭でも息子が優しく育ったのが奇跡というか、やはりレディ・リンドンの愛のたまものでしょう。天国で待っているから、ケンカしないで仲良くねと、最後まで家族のことを思っていた幼いブライアンの姿に涙が…。
終盤、ブリンドンとの決闘で、再びビビりまくりな相手と対峙するビリーという図が見られるのが面白い。ちょっと前まで絶望して飲んだくれていた彼が、まっすぐにブリンドンを見据えます。
うっかりミスで一発無駄にしたブリンドンに対し、わざと地面を撃ってチャンスを与えるところも、波乱万丈な人生を乗り越えてきた者の矜持を感じました。
ブリンドンが見てきたバリーがクズなのは事実だけども、どんな経験をしてきたかなんて彼は知らないし、同じ状況に置かれてビリーのように這い上がれる人なんてごくわずか。偉業を成したわけではなくても、凄い人物であることは事実です。
ラスト、淡々とサインしながら、ふとバリーの名を目にして手が止まるレディ・リンドンの姿が印象的でした。