
原題:CARLITO'S WAY
製作:アメリカ’93 145分
監督:ブライアン・デ・パルマ
原作:エドウィン・トレス
ジャンル:★ドラマ/犯罪
【あらすじ】かつて街を牛耳り麻薬の帝王として君臨したカリート。だが、出所した彼を待っていたのは仁義もへったくれもない変わり果てた街だった。待っていてくれた恋人と第二の人生を送るため資金を集め始めるも、彼にはどうしても返さなければいけない1つの“借り”があり……。
後半の緊張感あふれる地下鉄での追いかけっこが良かったです。それまで足を洗ってやり直したいと彼なりに頑張ってるのを見てるから、どうしても切り抜けたいという必死な気持ちが伝わってきます。
冒頭でどうなるかわかってるし、途中でその冒頭に繋げるための伏線がわかりやす~く提示されてるから先は読めるんですよね。でも、彼自身きっとそれをわかってて、それでも諦めきれない…。その足掻きが涙腺を刺激してきました。
最期に彼の目に映るのが、ポスターに描かれる夢の場所で、それが彼女と生まれてくる子ども(?)が楽しくダンスしている様子になっていくエンディングが素晴らしかったです。
このアル・パチーノはイケメンでしたね。ダメなところもあるけど、友情とか義理に厚くて。ヒロインとのロマンスも引き込まれます。彼を誘惑するエピソードが可愛い!
友人だった悪徳弁護士はどんどんヤバくなってくるけど、まあ殺される未来しか見えない状況なら薬物のとりこになってしまうのは当然かも。元々流されやすいタイプに見えたし。…しかし裏切りは許せん。
カリートも過去の栄光を引きずって変なプライドを見せなければハッピーエンドだったんだろうに、そうできないのはやはり彼の生き方が、これまで犯した数々の罪がそうさせなかったんでしょうね。
破滅を予感しながらも彼を愛し続けたヒロインが切なかったです。
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原題:JACKIE BROWN
製作:アメリカ’97 155分
監督:クエンティン・タランティーノ
ジャンル:★ドラマ/犯罪
【あらすじ】フライトアテンダントの黒人女性ジャッキー・ブラウンは、密売人の売上金をメキシコからアメリカに運ぶ副業を持っていた。だがある日、捜査官に密売人オデール逮捕に協力するよう強要される。オデールは証拠隠滅のために彼女を保釈しようとするが、保釈屋マックスは彼女に好意を抱き…。
道を踏み外した中年女性が、保身とチャンスをつかむために捜査官や密売人の目を欺こうとする犯罪ドラマ。頭を使って相手を出し抜いているもののアッと驚く展開ではなく、間の抜けたところのある輩の運要素の強い駆け引きが描かれます。この手の犯罪ドラマと比べると色々とゆるいけど、それも許せてしまう可愛らしさがある作品でした。
まず、彼女を助ける保釈屋のおじさんが可愛いんですよ。ジャッキーを保釈して迎えに行ったら、留置場で過ごしたせいでお世辞にも美しいとはいいがたい彼女を一目見て目が離せなくなってしまうんですね。ベタながら「恋に落ちました!」という瞬間が胸キュンで、その時点でかなり好感度アップ。
自分を殺そうとした密売人よりも、刑務所に入って今度こそまともな職につけなくなることの方が怖いと話すジャッキーも、自業自得とはいえ憎めなくて、ついその行く末を見守りたくなりました。
あと、珍しくただの無能な子悪党の役を演じるデ・ニーロさんもいいですね。いつものオーラは抑えて淡々と演じてます。退場の仕方もあっけないし、このおっさん馬鹿だなーという印象しか残らない役なのにきちんと演じてました(笑)
地味ながら軽妙で味わいある作品だったと思います。
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原題:GET THE GRINGO
:HOW I SPENT MY SUMMER VACATION
製作:イギリス’2012 95分
監督:エイドリアン・グランバーグ
ジャンル:アクション/犯罪
【あらすじ】マフィアから大金を強奪した”ドライバー”は、メキシコへ逃亡を図るが失敗。無法地帯と化した悪名高き刑務所エル・プエブリートに収監される。そこは、金さえあれば脱獄以外は思いのままという凶悪犯の巣窟だった。巧みに立ち回りつつ機会を窺うドライバーは”キッド”と出会い…。
これは作品の舞台となる、メキシコに実在した史上最悪の刑務所“エル・プエブリート”が主役ですね~。
刑務所の中なのに、まるで荒廃した街そのものなんですよ。そこでの待遇は金で買い、金さえあればなんでもあり。家族を呼び寄せて一緒に暮らすこともできるし、酒やたばこはもちろん、女やヤク、それに命だって手に入ります。
”ドライバー”と呼ばれるアメリカ人(メル・ギブソン)は、ここに入れられてゼロからのし上がっていこうとするんですが、その手口が巧妙かつ手慣れた感じでクール!
しかも、そこで親しくなる母子の背景が、またいかにも無法地帯っぽくて雰囲気ありまくり。
テンション上がるほど盛り上がるようなシーンはないものの、じわじわと別世界に引き込まれていく感じと、切れ者の主人公が飄々とピンチをかわしていく展開は小気味よかったです。
他にも、主人公が元狙撃手で「(狙撃の)パートナーになるか?」と少年に持ち掛けるところが微笑ましかったし、少年の母親と一緒にいたら、帰ってきた少年が「邪魔者は退散するよ」という顔で去るところは面白かったです。あと、手榴弾空中キャッチ&即投げ返すシーンがカッコいい(笑)
終盤は母子の深い愛情にホロリときました。少年のやり方は悲しすぎるけどね…。
ただ、汚職警官とマフィアのボス?の顔が似ていて混乱したのと、例のアレを取り出すところまでいっちゃったので素直にハッピーエンドと思えなかったこと、ラストにあの名前が復讐に繋がっていたとわかるくだりは個人的に微妙。
名前の件は好きな人が多いみたいだけど、あんまり復讐ものって好きじゃないし、同姓同名がいたら「ターミネーター」みたいなことになるのでは…?
ちなみに撮影を行ったのはメキシコのイグナシオ・アジェンデ刑務所で、「居住に適していない」ということで居住者を追い出している最中だったそうです。あの街みたいなのはセットじゃなかったり!?
グロイ描写もあるものの、この街みたいな刑務所の雰囲気を堪能できるだけでも価値があります。

原題:WHITE HEAT
製作:アメリカ’49 114分
監督:ラオール・ウォルシュ
ジャンル:★犯罪/アクション
【あらすじ】凶悪なギャング団を率いるコーディ・ジャレットは、列車を襲撃し乗務員を殺して現金を強奪した。そして巧みな策略で強盗殺人の罪を逃れ、別の軽罪で刑務所に入るのだった。それを見抜いた捜査当局は、潜入捜査官ファロンをコーディの同房へ送り込み…。
<ネタバレあり>
面白かったです。やはり悪が魅力的な作品は、力強くて見応えありますね~。
マザコンな一味のボス・コーディと、そんな息子をしっかり支える母親コンビが最強!(笑)
人をバンバン殺して強盗から帰ってきた一味が、なんでおばさんに食事の用意をしてもらってるんだろう?人質?とか思ってたら、コーディを凶悪犯罪者に育て上げた諸悪の根源でびっくりしました。
「見つかれば全部しゃべっちまう」とか「連中に弱みを見せるとつけ込まれる」とか悪党の母親らしい助言の数々が頼もしいし、警察の追跡を撒くのもお手のもの。息子が刑務所で命を狙われれば「それ(出所する)まで生かしとく気?私が許さない。年はとってもそれぐらいできるさ」とか殺す気まんまんなんですよ。
息子が弱気になると「世界一になりなさい」と励ます一般的な母親らしさもあり、息子にとってもかけがえのない存在です。
それがあっけなく退場した時は「彼女のことだから生きているに違いない!」と思ってしまいました(汗)
一方、警察の方もやり手がそろっていて、母親が食料買い出しに来るのを待ちかまえ、駐車中に車に目印を付けておいたり、本部と主人公と追跡車両で連携を取って、発信機を取り付けた犯人の車の位置を割り出したりと頼もしい。
潜入捜査官であるファロンは、5年で8回も刑務所に入ってる苦労人なんですが、プロだけあって犯人の信頼を得る手口に唸らされます。あんなふうに命を救われ、弱ったところをかばわれた挙句に「俺はガキの頃からあんたに憧れてた。こんな姿を周りの連中に見せるな」とか言われたら信じたくもなりますよ。
そうやって信頼を得ながら、機転の良さで何度もピンチを切り抜け、粋な方法で警察と連絡を取り、コーディと行動をともにしながらじわじわと彼を追い詰めていきます。
華麗なアクションなんてなくても痺れました。
でもね~、”奥さん”のところに行きたいという主人公に対し、あんな悪党が「寂しいんだな。俺も同じだ。おふくろがすべてだった…」と柔らかな表情で心の内を語る姿を見ると…。すべてを知って「すっかり信用して弟のように思ってた」と自嘲気味に言うくだりも切ない!(涙)
凶悪犯罪を防ぐのにスパイ行為が効果的なのはわかるし、必要なことなんだろうけど。わずかに残った人間的な部分を踏みにじったりしたら、完全にモンスターと化してしまいそう。
裏切る方も、続けていたら人間としての心を失ってしまいそうですよね。
まあ、実際はここまで心を許すことなんて滅多にないのかもしれませんが。
終盤の戦いは、やはり悪党の滅びゆくさまが画になってました。
ジェームズ・キャグニーさんの迫真の演技が楽しめる傑作です。

原題:THE TALENTED MR. RIPLEY
製作:アメリカ’99
監督:アンソニー・ミンゲラ
原作:パトリシア・ハイスミス
ジャンル:★ドラマ/青春/犯罪
【あらすじ】アメリカ人の富豪の依頼で、放蕩息子ディッキーを連れ戻しに憧れの地ヨーロッパへやってきたトム・リプリー。彼は大学時代の友人と偽りディッキーに近づくが、やがて彼の魅力に惹かれていく。だが永遠に続くかと思った幸せも、ディッキーの心変わりによって終わりを迎え…。
やたらと人気の「太陽がいっぱい」はあまり好きじゃないんですが(主に若かりしアラン・ドロンが)、先に観たこちらは好印象だったので、確認のためにも久しぶりに再見しました。
これって140分もある作品だったんですね…たぶん初見はテレビカット版で、改めてこの作品の濃厚さにやられました。とくに「リプリーズ・ゲーム」で彼のその後を知ってるので、そんな業の深い人生の始まりとして観ると、ますます切ない!
評判をみると、この作品を「太陽がいっぱい」のリメイクと勘違いして、こちらの方が原作に忠実なのを知らずに批判してる人が多くて悲しいです。
同一原作でも「太陽がいっぱい」は一つの作品として完成されてると思うし、こちらはこちらで原作をリスペクトした映像化作品として十分見応えあるものになってたと思うんですけどね。どちらの主演俳優も、彼らじゃなければ成り立たないくらい、見事にその作品のリプリーになりきっていました。
<以下ネタバレという名の妄想>
印象に残ったのは、ディッキーを殺した後、ホテルに戻った彼が、「グリーンリーフ様ですよね?」と尋ねられ、この先の人生が決まったシーン。
おそらく愛する人をその手で殺した彼が、フラフラしながら戻ってくるまで頭の中でぐるぐる回っていたのは、「何故あんなことを」という後悔と、「どうして彼が死んで、僕は生きている」という疑問だったと思うんですよ。
もしかしたら、ボートの上で殺されたのは自分かもしれない。けれど実際に生き残ったのは自分。答えなんか出ないはずだった疑問に、ディッキーと間違えられた瞬間「自分はディッキーを蘇らせることができるから生き残ったんだ!」という答えと、”自分の中に愛する人が生きている”という安心感を覚えたんじゃないでしょうか。
ディッキーに成りすまし、結構行き当たりばったりで保身に徹するリプリーの様子が(最初は)やけに楽しそうなのも、自分の身を守ることが、唯一この世にディッキーを蘇らせる方法であり、ディッキーの死を否定することで罪の意識から逃れられたからだと思います。
そうやって嫌な記憶を地下室に押しやって鍵をかけていたのが、ピーターの存在によって再び掘り起こされるんですよね。
彼に惹かれれば惹かれるほど、(同化したことで)ディッキーへの憧れが薄まるほど、そしてピーターが他の誰でもない”リプリー”を愛するほどに、犯した罪がリプリーを苛みます。
もしメレディスに連れがいなかったら、殺されたのは彼女の方だったかも。
静かで残酷な結末に、ピーターが最期に何を想ったのか(きっとディッキーを殺したかもしれないと一度は思いつつも、彼を信じただろうに)…それを考えると泣けました。
ところで、他の方のレビューの中に”ディッキーもゲイだった”というのがあったので、巻き戻しつつ自分なりに検証してみた結果、「どちらともとれる」という答えしかでませんでした。
いちおうリプリーを気に掛けていると思われる点としては…
- 1、風呂場でのことや列車で何度も「ぶきみ」なことをされても拒絶しないどころか、その後も平気で肩を組んだり、隣に座ったりしていた。
- 2、列車での「ぶきみだ」は自分に言い聞かせるみたいだったし、ボートでの「退屈だ」はこれ以上、リプリーのたわごと(ディッキーは心を偽っている)を聞きたくないという感じだった。
- 3、切れやすく、相手を病院送りにしたことがあるディッキーが、ボートでリプリーを殴ろうとして我慢した。
あと、ちょっと自信ないんですが、「太陽がいっぱい」のようにお金はリプリーが引き出していたなら、シルヴァーナが妊娠した時に堕胎手術費用を用意しなかったのは、リプリーに知られたくなかったからかも?と思ったり。
まあ、どれも友情なのか恋愛感情なのかは、観る人によって違ってきそうです。
でも、重要なのはゲイかどうかよりも、ディッキーにとってリプリーが特別だったかどうかですよね。
彼の周りに集まるのは、表面上は仲良くしてても裏ではフレディのように「彼に音楽の才能はない」と悪口を言っているような人ばかりで、みんな金目当てや良家のお坊ちゃまだから仲良くしてるだけだったんだと思います。
でも、リプリーはわかりやすいくらいディッキーが大好きで、「君のためならなんでもする」とさえ言っていました。
たとえそれが恋愛感情によるものだったとしても、ディッキーにとっては(初めての?)本音で話せる相手だったのではないでしょうか。
しかし、それもフレディによって(たぶん裏でも色々吹き込んでいた)、彼も金目当てなのではないかという疑念が生まれてしまった。実際リプリーは上流階級の暮らしというものに強い憧れを持っていたし、その正体は同級生などではなく、貧しい調律師でした。
一度は特別だと思った相手だったからこそ邪険にはしなかったし、失望も大きく、最終的には激しい怒りに繋がってしまったのかもしれません。
そう考えると、やはり冒頭の「最初に上着を借りていなければ…」というモノローグがやるせないんですよね。
リプリーとディッキーが出会ったことで、本当に多くの人が不幸になってしまいました。きっと幸せになれたのは探偵さんくらいのものでしょう。(父親もなんだかスッキリした表情をしてる気がするけど)
メレディスのその後は知りませんが、彼はその後ハープシコード奏者の奥さんと暮らすので(原作では違うかも?)、利用した後は別れたんでしょうね。さすがに殺してはいないと思いたいですが、やはり彼と出会って不幸になったひとりだと思います。
…色々と妄想が膨らんで楽しめる作品でした。
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原題:HENRY'S CRIME
製作:アメリカ’2010
監督:マルコム・ヴェンヴィル
ジャンル:サスペンス/犯罪
【あらすじ】平凡で退屈な毎日を無感情に過ごしていたヘンリー。ある時、高校時代の悪友に騙され、知らぬ間に銀行強盗の片棒をかつがされたあげくに、自分だけが捕まってしまう。1年後、仮出所したヘンリーは、偶然にも、銀行と劇場が古いトンネルで繋がっていることを知り…。
軽く楽しめる地味な犯罪ラブコメ。疲れた時にのほほんと観られそう。冴えないキアヌ・リーヴスが好感持てるし、ジェームズ・カーン演じるマックスのチャーミングなおじいちゃんっぷりを楽しめればいいのです。おじいちゃんおばあちゃん大好きな人におすすめ!
マックスは信用詐欺師だけあって口が上手いんですが、初めて来た劇場で「昔ここで演じたんだ」と役者経験もないのに打ち解けて、巧みに情報を引き出す手腕がお見事。ヘンリーが無口でヌボーとしてるので、その分彼が口を動かして働いています。っていうか、彼がいなかったら何も出来なかった気が(笑)
なんせヘンリーは、誰でも見られる古い新聞記事を目にし「これ銀行強盗に使えるんじゃね?」と思って行動に移してしまうわ、その劇場の女優と恋に落ちて計画を話してしまうわ、思い立ったが吉日タイプなので、それをコントロールできる人がいないと物語が成り立たなくなってしまいますし(汗)
でも、「刑に服したんだから銀行を襲ってもいいはずだ」と突拍子もないことを言い出すヘンリーに豆鉄砲くらったような顔をしつつ、結局は自分を必要としてくれた友人のために勇気を出して出所できたので、彼もヘンリーがいなければ何もできなかったんですよね。
そんな正反対だけど妙にしっくりくるコンビ、大好きです。
あと、出所したばかりの彼を轢いてしまった売れない女優のジュリーとのロマンスも普通に楽しめました。ズバズバものを言って怖いくらいなんだけど、その力強さがヘンリーに勇気をくれる流れに納得。
妻と別れ、とくにショックを受けてない自分に戸惑った様子だったヘンリーが、彼女に惹かれはじめて急に人間らしさを取り戻していくのが良かったです。
奥さんは可哀想だけど、新しい男があれだからなぁ…たぶん弱ってる人に同情して愛と勘違いしてしまうタイプなんじゃ。結局ラストは新しい男にも見捨てられて、存在を忘れられてるっぽいのは本当に可哀想でした。
ネタバレですが、銀行に通じる穴を再び開通させるため、劇場の楽屋では仲間が穴掘りし、ヘンリーはその楽屋を確保するためにジュリーと劇団で演じるという流れも面白かったです。隠れ蓑にしつつ穴を掘るという作戦は定番だけど、顔を知られる舞台役者っていうのが新鮮。
高飛びするにしても、余裕かましすぎですぐ捕まりそうですけど(汗)
やってることは銀行強盗(誰も傷つけない)ですが、「何かやらなければ何も変わらない」と気付いて変わろうとする主人公の遅い青春物語ともいえます。
色々とゆるいものの、なぜだか許せてしまう作品でした。

原題:THE SECRET FOUR/KANSAS CITY CONFIDENTIAL
製作:アメリカ’52
監督:フィル・カールソン
原作:ハロルド・R・グリーン、ローランド・ブラウン
ジャンル:★サスペンス/犯罪/ミステリー
【あらすじ】現金輸送車襲撃事件に巻き込まれ、犯人扱いされた挙句に仕事をクビになってしまったジョー。彼は正当な分け前をもらうため、犯人の一人に扮してメキシコへ行く。そこには犯人たちが金を山分けするために集まっていて…。
これは先が読めなくて面白かったです。
顔が見分けられるひとなら中盤驚かないのかもしれないけど、私的に「お〜、そうきたか」という感じ。
下手にボスの顔を隠したりしないところが清々しいですね。
見せているのにミステリアスで、次はどう動くのか目が離せません。
ちょくちょく下手な殴り合いのシーンとかあってB級なんだろうけど、ニコニコ動画の原宿グラインドハウス(youtubeでパブリックドメイン映画に日本語字幕をつけてる翻訳家さんがいて、それをニコ動で上映する企画)で見た中では一番出来がよかったし、最後までハラハラさせられました。
そして、娘さんとの恋や親子の愛情もしっかり描かれていて見応えあります。
「娘への愛を託した」という言葉を聞いて、悲しみのなかに喜びの表情が浮かぶところなんてよかった。女優さん綺麗!
脚本もしっかりしていて、低予算ながら楽しめました。

原題:DOG DAY AFTERNOON
製作:アメリカ’75
監督:シドニー・ルメット
原作:P・F・クルージ、トマス・ムーア
ジャンル:★ドラマ/犯罪
【あらすじ】勢いで銀行を襲うも肝心のお金はほとんどなく、ぐずぐずしているうちに警官隊に囲まれ篭城せざるを得なくなった二人の強盗ソニーとサル。海外に高飛びするため警察と交渉するなか、強盗と人質の間に奇妙な連帯感が芽生え始め…。
久しぶりに再見したけどやっぱり面白い。
大筋は覚えていたものの、ソニーの家族とか結婚の事はさっぱり忘れていました。内縁の妻が登場した時、「あれ、どういうこと?」となったくらいで。
にしても、偏見の強い時代に内縁の妻が来て大喜びするソニーは肝が据わってる。実話なんだよね?
野次馬とマスコミを利用して警察を悪者に仕立てたところも見事だったけど、単に行き当たりばったりなだけかもしれない。
銀行には詳しいのに、メンバー編成からして思いつきで始めたとしか思えない銀行強盗。「そこ一番大切なところだろうっ!」とツッコミ入れてしまいました(笑)
でも、妙に行動的で冷静なところもあって、サルが暴走しないように人質や警察などの対応に必死になる姿をみていたら、人質が協力的になっていくのもわかる気がしてきます。
サルの子犬のような目も印象的で、そこにいつ発射されるかわからない銃の存在が加わって、とてつもない緊張感が。
刑務所に戻るのだけは嫌だという彼が「逃げのびるか、死か」と心に決めている事や、最後に連絡したい家族や恋人はいないのかと尋ねられ、誰もいないと答えた事を考えると、彼の哀しい人生がなんとなく浮かび上がってきて切ない…。
ソニーも彼の覚悟を最初から知ってたんだから、もう少し計画を練ってくれば良かったのに…。人質に説教されるのも当然です。
でも、強盗犯と人質のそんな奇妙な絆も、終わってみれば夢だったと思えるほどに儚くて、そこに気付いたソニーの表情が良かった。
たぶん、事件をFBI視点とか人質の家族視点で観ていれば、ラストはホッとするシーンなんだろうね。
時間を忘れる作品でした。
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原題:MATCHSTICK MEN
製作:アメリカ’03
監督:リドリー・スコット
原作:エリック・ガルシア
ジャンル:★コメディ/犯罪/サスペンス
【あらすじ】極度の潔癖症である詐欺師ロイは、詐欺の時だけはそれから開放され、自らの技を芸術と自負していた。ある日、ロイの前に14歳の少女アンジェラが現われ、彼の実の娘だと言い出す。困惑しながらも父親として変わろうとするロイだったが、詐欺師だという事がバレてしまい…。
まったく知らない作品だったんですが、とっても面白かったです♪
主人公は詐欺師なんだけども、自分でもどうしようもないくらい潔癖症なところとか、アンジェラと出会ってよき父親になろうと努力する姿が好感持てます。
映像はさすがリドリー・スコット監督って感じで、ロイの汚れに対する恐怖って言うか執着が目で見てわかるんですよね~。
それが彼女に出会ってから、瞬く間に改善されていきます。
彼女にせがまれて詐欺のやり方を教えてしまっても、「やり方を教えると言ったが金を盗っていいとは言ってない、適当に誤魔化して返してきなさい」とか彼なりに親らしくしてみたり、セラピーの先生の助言を迷える子羊のごとく一言も漏らさず聞こうとする姿が可愛い。
コロコロ表情が変わる少女も本当に可愛くて、薬なんかよりよっぽど効果的というのに納得。名前の通り天使でした。
もともとロイがこうなっちゃったのも、奥さんを失った自分の愚かさが許せないからという感じでしたしね。
でも、演じていた女優さんが実は23歳くらいだったと後から知ってマジでビックリしました…。
あと、彼の相棒との関係も良くて、潔癖症なのによくこんな奴と一緒にいられるなというくらい普通のがさつな男性で、でもだからこそ本当に信頼しあって一緒にいるんだというのが伝わってきます。
こういう作品はガッカリする事も多いし嫌な気分になる事もあるけど、これは一番弟子からの愛のこもった恩返しに、見終えて心がほっこりしました。
うっすらネタバレだけど、ある意味「クリスマス・キャロル」と同じで、ファンタジー要素抜きにこれをできるのがすごい。
何も知らずに観るのが一番だと思います。
ちなみに、タイトルの「マッチスティック・メン」とは、冒頭でロイが言ってたと思うけど「詐欺師」の事です。その語源は英語のページを色々調べてもよくわかりませんでした…。マッチなどの売り子が、売り上げアップのために盲目を装ったりするからかも?と言ってる人はいましたが。
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原題:RIPLEY'S GAME
製作:イタリア・イギリス・アメリカ’02
監督:リリアーナ・カヴァーニ
原作:パトリシア・ハイスミス
ジャンル:★サスペンス/ドラマ
【あらすじ】強盗殺人で数百万ドルの贋作絵画を手に入れ裏世界から身を引いたトム・リプリー。そんな彼の元に、昔の仲間リーブスが現れ、邪魔者の始末を強引に依頼する。一度はにべもなく断ったトムだったが…。
「太陽がいっぱい」や「リプリー」の続編の話の映画化です。
マルコビッチのリプリーがよかったですね。今までみた彼の中でも一番嵌ってた気がするし、ドロンのリプリーより謎の男って感じが好きです。
20年後という設定らしいけど、携帯電話が出てくるから舞台は現代でしょうか。はっきりとは言ってなかった気がするし、どうせなら携帯電話なしで曖昧なままにしておけばよかったのに。
で、リプリーは引退して豪邸(若干悪趣味 笑)で奥さんと幸せに暮らしてます。まあ、前からバイセクシャル匂わせてましたし、ちゃんと愛のある結婚生活を送ってるんですよ。
ハープシコード奏者の彼女といちゃいちゃ連弾するシーンとか、スフレが改心の出来だと奥さん&メイドの前で嬉しそうにする姿が可愛い。
→以下ネタバレ注意!
でも、昔の仲間リーヴスに商売敵を始末して欲しいと頼まれ、彼は自分ではなくパーティで自分を侮辱した額縁職人ジョナサンを紹介するんです。
ここら辺はリプリーだなぁという感じで、いくらお金持ちになって芸術を嗜んでいても、上辺だけだから常にコンプレックスを抱えています。
ちょっと気になる相手だった(多分)から、侮辱されて余計にカッチーンときてしまうところとか(笑)
一方、リーヴスに丸め込まれて、大金に釣られて暗殺を引き受けてしまったジョナサンの転落っぷりもよかったです。この人も演技が素晴らしくて、苦悩するダグレイ・スコット(「エバー・アフター」の王子様やん!)に思わず感情移入してしまいました。
引き返せないところまできてしまった彼が絞殺具を片手におろおろしてるところへ、颯爽と現れて手助けするリプリーが頼れる~!
混乱しつつも、殺しや騙された事に対する忌避感より、安堵の方が勝って一緒に暗殺をやり遂げてしまうジョナサンも、さすがリプリーが見込んだだけあります。
ジョナサンのリプリーへの懐きっぷりは、もはやその気があったとしか思えませんが、さいごの満足げな表情を見たら、リプリーがやった事が悪い事なのか良い事なのかわからなくなってしまう…。
少なくとも、これだけ濃密な数日間は人生初だったと思います。
ラスト、妻の演奏を聞きながら、リプリー目線であのシーンを繰り返すところにグッときました。
ただね~、ベッドで何となく感づいている妻にあれこれ聞かれて、彼女をうつぶせにさせてキスしてうやむやにするシーン。あれって、後ろめたくて彼女の顔を見ながら出来ないっていうより、ジョナサンの顔を思い浮かべるつもりなんだろうとか思っちゃいましたすみません。
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原題:SUR MES LEVRES
製作:フランス’01
監督:ジャック・オーディアール
ジャンル:★犯罪/サスペンス/ロマンス
【あらすじ】土地開発会社で働く35歳の独身女性カルラ。秘書として毎日せわしなく働いていたが、難聴のため心を閉ざし常に孤独を感じていた。そんなある日、ストレスで倒れ、上司の勧めでアシスタントを雇うことに。彼女は刑務所帰りで保護観察中のポールを雇うのだったが…。
またまたGyaoで鑑賞。なるべくなら期間内に記事にしたくて、TVで観た映画がすでに4本後回しになってたり…。頑張らなきゃ!
この作品、どこが好きかと聞かれるとよくわからないんだけども、観ている間、ぐいぐい引き込まれました。
難聴で読唇術ができるため、陰口もわかってしまい孤独な日々を送っているカルラと、刑務所帰りでやっぱり孤独なポールの、共犯関係というか依存関係に限りなく近い恋愛関係未満みたいな?
ふたりの浅ましい利己的な想いがリアルに描かれてて、ロマンスというにはちょっと…なんだけど、下品ではないし、妙に艶かしい。
刑務所帰りのポールを雇って見返りを期待しているカルラと、彼女の体に興味はあるものの、自分の生活が一番なポール。お互いに必要とあらば相手の技術を利用し、しだいに共犯関係に変わっていきます。
利用しているのか利用されているのか、そこに信頼や愛はあるのか、さりげなく緊張感が高まっていく中、カルラが彼の気を引くためにオシャレしたり、会話をシミュレーションしたり、こっそり持ち帰った彼のシャツを素肌に纏ったりする姿が印象的。
そんな依存と紙一重のような関係も、なんだか観てて悪くないんですよね~。
タイトルの意味がわかる終盤のやりとりも良かったです。愛が生まれたとしたら、あの時だろうなぁ。
その後の展開はちょっと後味悪いし、保護観察のおじちゃんのエピソードは必要なのか疑問だったけど、最後までセックスなしでふたりの間にエロスを感じさせるところがすごい。
不思議と見ごたえある作品でした。
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原題:DE BATTRE MON COEUR S'EST ARRETE
製作:フランス’05
監督:ジャック・オーディアール
ジャンル:ドラマ/犯罪/音楽
【あらすじ】父の影響で不動産の裏ブローカーになった28歳のトム。だが、恩師に再会し、”母のようなピアニストになりたい”という夢が蘇る。再び鍵盤に向かう決意を固めた彼は、言葉が通じないベトナム人留学生に習い始めるが…。
最初は淡々としていて、彼がどんな人物なのかよくわからないし、ぼや~っと観ていたんですが、ピアノレッスンを始めてからが本番でした。
ちょっとヤバイ仕事をしていて、父親には金の取立てを任されるし、不倫はするし、暴力は日常茶飯事というトム。そんな彼の日常のエピソードを”つまみぐい”くらいの感じで見せていき、合間にレッスン風景を挟んでいきます。
それが「映画なのにこれでいいの?」というくらい単純な繰り返しで、”日常→レッスン→日常”と終盤まで続くんですよ。
でも、シンプルだからこそなのか、彼が上達しのめり込んでいく様子が詳細に伝わってきました。日常のエピソードの中でも指だけは動かしていたり、音楽を聴いていたり、彼の生活の比重が段々と音楽に傾いていくのがよくわかるんですよね。
ピアノを教えてくれるのが、言葉の通じない留学中のベトナム人女性というのもよかったです。言葉は通じなくても、お互いに真剣なのがわかるから、音楽と向き合う時間を共有し、音楽で通じ合います。
一度トムが諦めようとした時、彼女が涙が出そうなほど通じない言葉で叱り付け、彼がおとなしくレッスンを再開したくだりは静かな感動がありました。
ただ、私は勝手に音楽ドラマだと思い込んでいたので、フィルム・ノワールなラストにはちょっと裏切られた気分になったり…。まあ、思い留まったのは音楽のおかげだろうけど、あそこまでしちゃったら終わったも同然だよねぇ…。
ちなみに原題の意味は「鼓動が止まる、僕の心臓の」。鼓動=音楽と考えると、やはりラスト以降のことを言ってるのでしょう。恋人さんには何も告げず姿を消しそうです…。
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原題:PRIZZI'S HONOR
製作:アメリカ’85
監督:ジョン・ヒューストン
原作:リチャード・コンドン
ジャンル:★犯罪/コメディ/サスペンス/ドラマ/ロマンス
【あらすじ】NYのマフィア、プリッツィ・ファミリーの一員で殺し屋を務めるチャーリー。彼はファミリーの結婚式でアイリーンという美女と出会い、一目惚れしてしまう。間もなく、ふたりは恋に落ちるが…。
冒頭で小さい子供のクリスマスプレゼントが金属製のナックルだったからコメディだと思ったら、ブラックの方でした(笑)
でも、主人公チャーリーが殺し屋のくせにどこか純で、そのアンバランスさがコミカルで可愛いんですよ。
元婚約者メイローズが父親に酷いことを言われ傷ついた時、彼は一目惚れした女性を探すので忙しいという態度で「なんてやつ!」と思ったんだけども、その想い人アイリーンと出会ってからの様子が微笑ましい!
本当に彼女に夢中で、瞳を見つめながら「(お互い)母親を知らなくても、母親から与えられなかったものを与えてくれる相手を、お互いに見つけ出した。運命の相手だ!」というような事を語るロマンティスト。
他の作品だったら、彼女のとある嘘によって、誰を信じていいかわからないようなサスペンスフルな展開になるところだけど、彼はけっこうあっさり信じてしまうんですよねぇ(笑)
その上、メイローズに言われてまさかの結婚!
その辺りから、メイローズの中でくすぶっていた黒い炎が見え始め、怖~い女の復讐が始まります。なんたって「アダムス・ファミリー」のモーティシア役の女優さんだから、含みのある笑顔にゾクッ!
化粧でやつれたように見せ、デタラメを言って父親がチャーリーを殺すようにし仕向け、ファミリーの名誉の問題だと逃げ場をなくし、興奮した父親に「お水を飲んで」と酒を飲ませた時の笑顔(イラストのシーン)が怖い怖い…。
彼女の思惑通りになったのか、チャーリーとアイリーンの想いがずれていく終盤はハラハラしてしまいました。
”シシリアン・マフィアは、金を手放すくらいなら子供を食べる”というアイリーンの元夫の言葉から、チャーリーを試すアイリーンが切ない…。
そして、打ちひしがれたチャーリーが求めるのは、やはりメイローズ。彼からの電話に、表情を輝かせるのと同時に朝日が差し込む演出が印象的。
「女と男の名誉」…その違いを考えさせられるブラックユーモア溢れる作品でした。ちなみに原題の意味は”プリッツィファミリーの名誉”です。
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原題:POUR ELLE
製作:フランス’08
監督:フレッド・カヴァイエ
ジャンル:サスペンス/犯罪
【あらすじ】パリ。美しい妻リザと、幼い一人息子オスカルと共に平穏で幸せな毎日を送っていた国語教師ジュリアン。だがある日、リザが逮捕され殺人罪で20年の禁固刑に。彼女を信じるジュリアンは、妻の自殺未遂を機に脱獄させる事を決意し…。
テンポがいいし、愛一直線かつ、なるべく周りを傷つけないようにはしていて、犯罪ものなのに(殺人も犯している)わりと感情移入できました。
だって、最初の幸せそうな様子と、突然踏み込んできて愛する妻を警察に連れて行かれ、何もわからない子供がわんわん泣いている様子を見ちゃうとね…。
それに、冤罪というのが恐ろしい。凶器に残された指紋を調べれば向きや位置などで殺害時のものかどうかわかるだろうし、彼女の襟に残された血痕も、位置的におかしいし他に返り血はない。
これで有罪になってしまうなんて、本当に怖すぎる!
まあ、後半あれだけ全てを賭けられるなら、最初から一流の弁護士を雇いなさいよとは思いましたが。
他にもちょこちょこ気になるところはあって、妻が子供より旦那っていう男の理想像って感じだし(帰って来て子守の話を聞いただけで確認に行かず夫といちゃいちゃ、面会で真っ先に夫に飛びつく、自殺未遂)、旦那はわざわざ壁紙に計画を書き出して、逃げる直前に剥がしてゴミ袋につめてポイ。せめて燃やしてよ!
銀行の代わりに売人から奪おうとするのは、ある意味では良かったものの、息子の未来を思うとちょっと心配になりました。こういう人たちは警察よりしつこい気がして…。
こんな感じで、現実的に考えてしまうとやっぱり間違えてると思うけど、ロマンティックな夢物語としてはよくて、観ている間は引き込まれました。
お気に入りは、脱獄はするよりした後が大変、覚悟がないならやめた方がいいと、しっかり助言してくれる元脱獄常習犯。
あと、息子の母親との距離感ね。父親には甘えてべったり。でも、会いたがっていたはずの母親には目を合わせようとせず、キスも拒む。これが最後の逃避行の時、やっと「ママ…」と擦り寄ってくる姿に涙。ここが一番よかった!
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製作:アメリカ’08
監督:コートニー・ハント
原題:FROZEN RIVER
ジャンル:★犯罪ドラマ/サスペンス
【あらすじ】夫に新居購入費用を持ち逃げされた妻のレイは、支払期日までに金を工面しなければならなくなる。そんな時、モホーク族の女性ライラに騙され、凍ったセントローレンス川を越えてカナダからアメリカ側に不法入国させる闇の仕事の片棒を担がされ…。
お金が必要な時に、騙されて犯罪の片棒担がされたら、わたしも彼女のように自ら再びその仕事を求めてしまうかも…。頑張って働いても、それが報われなかった時ならなおさらです。
簡単に銃を持ち出す彼女に若干引いたんですが、ギャンブル依存症の夫に振り回されてヒステリー起こしてるならわからないでもない…かもしれない。淡々と描かれているのに妙にハラハラしたのは、彼女のこの不安定さのせいでしょうか。
しかも、貧しい上に両親の問題でこれまた精神不安定になってるレイの息子が、幼い弟の面倒を見てるから、ますますハラハラさせられるんですよ。
これなら普通に息子にバイトをさせてやった方が良かったような…。安心して子守を頼める知人がいなかった?
後半、パキスタン人の夫婦を密入国させるエピソードは、中身を確認せずにバッグを捨てるシーンにギョッとしてしまいました。テロリストを怖がるのはわかるけど、取り上げられた時の母親の様子とか…むしろ何が入ってるか叫ぶと思うし。ライラが聞き逃した?
過ちに気付いたときの行動は良かったものの、宗教的な展開で微妙についていけませんでした。
それに、考えてみれば彼女は、新居購入の手付金1500ドルが無駄になるのが嫌で、残りの購入費を稼ごうとしてるだけで、古い小さなトレーラーハウスで我慢するという選択も出来たんですよね。小火の後にどうしても引っ越さないといけない、と言ってたけど、今までのお金を使えば修理できたのでは?
結局、彼女も夫と同じようにギャンブルに嵌ってしまったんですよね。
一度陥るとなかなか抜け出せない貧しさと、ギャンブルや犯罪の誘惑…。そういうのがリアルに描かれていたと思います。
最後の一線の手前まできた時の彼女たちの行動には、驚きと感動がありました。レイもライラも、お互い母親として、最悪な状況の中で最善の道を選んだんだと思います。
どうして今さら子守なんて、と電話で問う息子が、幼子を抱くライラを目にした途端納得する描写もいい。
事態が好転したわけでもないのに、ラストの青空と、直ったメリーゴーランドの遊具で遊ぶ子供たちの様子に、希望が見えた気がしました。

製作:アメリカ’56
原題:THE KILLING
監督:スタンリー・キューブリック
原作:ライオネル・ホワイト
ジャンル:★犯罪/サスペンス
出所したばかりのジョニーは、さっそく競馬場の売上金強奪という大仕事に乗り出す。信用の置ける仲間を集め、周到な準備の末、いよいよ決行の時が。計画は予定通りに進められるが…。
今年初の映画感想はこちらになりました。といっても、観たのは年末だけど。
これは面白かったです。テンポもいいし、「地下室のメロディー」と似てるなぁと思いながら観てました。あちらはギャバン&奥さんの魅力と、ラストの余韻が好きだったのに対し、こちらはイラストの男&奥さんの魅力と、計画が進行していく小気味よさが素晴らしかったです。…主人公のジョニーとやらは、彼にぞっこんの恋人が利用されてるように見えて好きになれなかったし、顔が覚えられなくて印象に残ってないですね(笑)
他にも、仲間の誰がどんな役割を果たしているのかいまいち把握できなかったり、狙撃の男が駐車場で銃を構えた時にはそれはないだろと思ったりもしましたが、しだいに計画の全貌が明らかになっていく展開には手に汗握りました。
やはり、計画の不安要素である夫婦が面白かったです。いや、旦那さんは可哀そうだったけど、奥さんの悪妻っぷりが見事で。金の匂いを嗅ぎつけて、普段は絶対に言わないような言葉や態度で、計画を聞きだそうとする姿が滑稽で醜悪。あれだけ意図がはっきりしているのにそれにひっかかる一途な旦那は、ある意味可愛かったです。
わたし的にラストは「地下室~」が好きなので、この作品で一番アッと言わされたのは、彼ひとりで状況を覆したあの瞬間ですね。奥さんにも見せてやりたかった!
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製作:香港’04
原題:江湖
監督:ウォン・ジンポー
ジャンル:★犯罪/サスペンス/ドラマ
【あらすじ】黒社会を牛耳るホンと、彼の忠実な弟分で冷酷無比なレフティ。ホンの暗殺計画の噂によって、固い絆で結ばれた2人の間に微妙な確執が生まれる。一方、一旗あげようと目論むイックとターボは、鉄砲玉を選ぶクジ引きに参加し…。
ちょっとカッコつけすぎだし、流れが途切れ途切れに感じるところもあったけれど、なかなか良かったです。とくに、こういう題材なのに銃撃戦がないのが素敵。香港では銃より刀らしい(今はどうか知らないけど)。これだけで、かなり好感度UPです。
腹心として、友人として、ホンとその家族を守るために冷徹になろうとするレフティと、それを制止するホンとのやり取りもよかったです。互いに相手の事を想って言ってるんだけど、考え方が違うからその想いまですれ違いそうに。レストランで向かい合いながらの会話シーンは、ゆらゆらと揺れる演出も相まって見ごたえがありました。
代々黒社会の世話になり、家族を守るために命を賭けなければいけないイックや、何も恐れず彼に尽くすターボという、若い二人との対比もいい。
イックと惹かれあう娼婦のヨーヨーが、失うのを恐れながらも彼を送り出すシーンはうるっときてしまいました。
原題の「江湖」は黒社会のことで、ベルベット・レインは日本だけのタイトル。”ビロードのような雨”ってのは、終盤に雨に打たれるふたりの心情的なもの…かな?

製作:アメリカ’48
原題:ROPE
監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:パトリック・ハミルトン
ジャンル:サスペンス
【あらすじ】マンハッタンのとあるアパート。完全犯罪を成し遂げて優位を示そうと、同級生デヴィッドを絞め殺したフィリップとブランドン。彼らは、殺人を犯した部屋に友人やデヴィッドの両親を呼んでパーティを開き、スリルを楽しむのだったが…。
実際に起きたローブ&レオポルト事件を題材に、ヒッチコックが映画内の時間進行と現実の時間進行を同じに描いた実験的作品、ということだけど、密室劇で短時間で描くには、この題材は相性が悪いと思いました。
犯人が同性愛者だというのを説明なく臭わせてくるのはすごいけど、悪趣味な犯人二人が追い込まれる後半が物足りない。わたし的にはどうしたって被害者の両親に感情移入してしまうし、どれほどのことをしてしまったのか犯人に思い知らせてくれないと、それが一番気になって他に目が行かなくなってしまうんですよね。
ラストの教授の演説は舞台みたいだったし、言い訳じみてました。この人、パーティーで自慢げにニーチェの超人思想を語ってたから、両親たちは彼を主犯だと思いそう。少なくとも殺人教唆の罪で捕まってほしいです。
事件のことを調べてみたら、死刑廃止論を広めるために犯人たちを弁護したひとがいるというので、その人を描いたドラマが観てみたいと思いました。
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製作:アメリカ’73
原題:THE STING
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
ジャンル:★コメディ/犯罪
【あらすじ】1936年、シカゴ。詐欺師三人組が通り掛りの男から金を騙し取った。だが中身はニューヨークの大物ロネガンのもので、怒った彼は仲間の一人ルーサーを殺害。復讐を決意したフッカーは、天才賭博師ルークに組もうと持ちかける。
昨日は家の中を蟻が行進していて焦りました。誰だジュースこぼしたの!
それはともかく、久しぶりの「スティング」面白かったです。ちょうど映画をよく見るようになった頃に出会った作品で、ラスト以外はさっぱり覚えておらず新鮮な気持で見られました。
あの音楽が流れてきた途端に懐かしさがこみ上げ、楽しい映画の時間が始まるぞー!と気持ちが盛り上がります。そして、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが揃って、安心感と緊張感が同時に湧き上がってくるんですよね。これだけ身構えていても、これっぽちも退屈しないのがお見事。
彼らだけではなく、一緒に大仕事を成し遂げようとする仲間たちも生き生きしていて、詐欺師が素敵な職業に見えてしまいます。ロネガンが部屋を出て行ってから、彼らが素に戻るところが映画の撮影現場みたいで面白い。
そんな楽しい雰囲気から、突然殺し屋の襲撃があってヒヤッとするところもいいですね。殺し屋の正体はすっかり忘れていたのでギョっとしてしまいました。
一方、ふたりの間の緊張感はさすがに結末を知っていると感じないんだけども、こうやって観客を騙していくんだという事がアリアリとわかってにやけてしまいました。
何度でも騙されたい!気持いいくらいの傑作だと思います。
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製作:フランス・イタリア’76
原題:LE GANG(DANS LES GANG)
監督:ジャック・ドレー
原作:ロジェ・ボルニッシュ
ジャンル:★犯罪
【あらすじ】1945年、戦争の傷跡が残るパリ。神出鬼没のシトロエン・ギャングのロベールらは、いつものように仕事に出ていた。だが、帰って来た時の様子から、ロベールの恋人マリネットは不安に駆られる。彼女は彼との出会いを思い返し…。
カーリーヘアのアラン・ドロンがノリと思いつきと運でギャングごっこをしている感じの作品。原題はどちらも”ギャング”の事なんだけどね。
計画性は皆無だし、みんな仲良しで裏切りの気配もない。銃撃戦が始まった時はやっぱりギャングモノかと思ったけど、どうも弾が当たってる気がしないんだ。実は作中で一人しか死んでないんじゃないだろうか。
そんなちょっとぬるいギャングモノなんだけども、アラン・ドロン演じるロベールがなかなか愛嬌があって好感が持てました。
やってることは目茶苦茶でも、優しさは人一倍持ってるんですよね。感化院出の自分を実の子供のように育ててくれた夫婦、とくに半身不随になってしまった老父(ボス?)の肩を抱き、子供の頃を回想するシーンはよかった。仲間が彼を信頼しているのも、彼が大事な人を大切にする人間だと知っているからでしょう。
友達の赤ちゃんの洗礼のパーティで、男たちでわいわい遊んでいるのを眺めながら「今が永遠に続けばいいのに」と呟くマリネット。これが長く続かないとわかっているから、よけいにその幸せに満ちた風景が美しく見えました。
彼女がロベールのもとへ必死になって駆けつけるラストが切ない。
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